バシ!バシ!!
一瞬、目の前が真っ白になった。よろけた足が、衣の裾を踏んだ。。地面にぶち当たった体が痛かった。
両頬がヒリヒリと熱くなった。ヌメっとしたものが口中にひろがった。唇の端を手の甲で拭うと、鮮血!
一人の預言者の思いがけない行動に、その場にいた誰もが息をのんだ。 (ノ・ω・)オオ!
ケナアナの子ゼデキヤ。
その彼が、私(ミカヤ)の頬をびんたしたのだ。
彼は横たわる私を睨みつけ、上ずった声で言った。
「どうしてわかる。わたしの預言がウソだと、どうして言えるのだ!」
私(ミカヤ)はゆっくりと上体を起こし、両手で体を支えながら立ち上がった。そして、ゼデキヤに言った。
「あなたが身を隠すとき、そのことがわかるでしょう。」
突然、王アハブは家来たちに言った。
「ええい!ミカヤを捕まえろ。(# ゚Д゚)そいつを町のつかさアモンと、王子ヨアシの元へ連れて行け!!牢にぶち込んで、死なない程度に痛めつけておけ。わしが帰って来てからどうしようか・・」
私はふっと、口の端を歪めて笑ってしまった。
「王よ。あなたが凱旋なさる時、私は偽預言者の仲間入りです。無事のお帰りを」
話の途中で、右手をグイっとつかまれ、両手を拘束された。
「皆さん!!今日の、このことを覚えておきなさい。私は玉座におられるお方を見たのだ!!👀これは神様の業ですぞ。
神様はこう言われたのだ。『アハブを戦死させる方法はないか』と。すると一人の御使いが言ったのだ。
『私にお任せください。王のお気に入りの預言者たちに、王をそそのかせましょう』と。」
そう言うと、私は王の前から引きずり出された。
不自然に身をねじって、最後の言葉を言おうとしたとき、
またしても誰かが、私の頬を叩いた。
アハブ王の元から使者が来たとき、
私はすでに着替えをし、使者の足音が近づくのを待っていた。朝の祈りの中で私は幻を見せられ、アハブ王の戦死を告げられたばかりだった。
使者は言った。
「王様は念願だったラモテ・ギルアデを奪還したいと願っておられる。今、400人の預言者が宮殿に集められて、王様を励ます預言をしているのだ。ミカヤさん、あなたも王様を力づける預言をお願いします。
今日はユダの王様も来ていて、その王様のたっての願いで、あなたは呼ばれたのだ。口を慎んでください。」
使者はくどくどと言い募った。
どうやらヨシャパテ王は、アハブ王の命で招集されたらしい。ダビデ、ソロモンと続いた王家は、孫の代でユダとイスラエルに分かれた。ユダはダビデの直系だが、今はイスラエルの属国も同様になっていた。だからアハブの命には背けないのだ。
スリヤとイスラエルの間には、三年間、戦争がなかった。
その間、ラモテ・ギルアデはスリヤにおさえられていた。
そこはヨルダン川の東にあって、ソロモン王在位の時から、イスラエル領の重要な町の一つだった。
それは、ダマスコ(アラム)との国境にあったからだ。
6代目のアハブの父オリムは、元軍司令官だったが、二つのクーデターを制して王となった強者だ。彼はサマリヤに首都を構えたが、そこは多民族の地で偶像に満ちていた。
オリムの息子アハブは父に見習って、さらに国を豊かにした。信仰も父にならった。
父の代にはユダはアラムと同盟を結んでいたが、息子ヨシャパテはアラムとの縁を切り、イスラエルと同盟を結んでいる。この機を逃すわけにはいかないと、アハブは考えたのだろう。それを煽るように、取り巻きの預言者は言葉をつなげているのだ。
使者に伴われたミカやは、玉座に座るアハブの前に立った。挨拶をしようと腰をかがめると、頭上でアハブの声がした。
「待ちくたびれたぞ。ラモテ・ギルアデを取り戻したいのだ。私に勝算はあるのか?ないのか?」
ミカヤは少し首を傾げ、もったいぶって言った。
「王様、御出陣なさいませ。勝利はあなた様のものです。ここにおられる預言者の言われる通りです。」
おお~。
抑え気味のどよめきが広場に広がった。アハブ王は目を丸くし、肘掛イスをいまいまし気に叩いた。
「それが神の言葉だと!?ミカヤ、本当のことを言え!」
私は王の言葉に飛びついた。
「実は王様。幻を見ました。牧者を失ったイスラエルの民が、山の中でさまよっていました。」
その時だった、
ケナアナの子ゼデキヤが、私の目の前に大股でやって来て、私の頬をびんたしたのは。
私は薄暗い牢屋に閉じ込められ、命をつなぐための最低限の水と食べ物を与えられて過ごしたが、私の肌はつややかで血色もよく、眼力も衰えなかった。
どのくらい日数が過ぎたのか、私にはわからなかった。
それは、陽が沈んで明かりが必要になった頃だった。
バタバタと足音がして、いつもの牢屋番が慌ててやって来た。彼は、ガチャガチャと牢屋のカギを外しかけたが、手が震えてうまくいかないようだった。
私は思った。アハブが戦死したな。
「どうしたのです。そんなに慌てて」
「アハブ王様が亡くなったのです。流れ矢に当たって・・
それで今、国中が騒いでいます。預言者様、どうぞ牢屋から出てください。あなたのお世話をしながら分かったのです。あなたこそ真の預言者だと」
牢屋番は私を牢屋から出すと、あたふたと闇の中に消えて行った。久しぶりに外の空気を吸った。ここは町から少し離れていて、町の喧騒は伝わってこなかった。目の前に大きな木があった。星々がきらめくのを認め、私は根方に座って、目を閉じた。
王様、あなた様は、私の預言を信じておられたのでしょうか?王服をヨシャパテ王に着せ、ご自分は兵士の格好をして、戦車に乗られたのですね。敵が、ご自分を狙ってくると、分かっておられたのでしょうか。
王服に身を包んだヨシャパテ王が、スリヤ兵に囲まれた時、あなたはこれ幸いと逃げ出したのですね。でも、それがよくなかったと思いませんか。王を守るべき兵士が、王を残し、敵に背を向けて逃げ出すものでしょうか。
名もない兵士であっても、訓練された者は、逃げる者に反射的に矢を射るもの・・・身を鎧で固めていたのに、わずかな胸板と草摺りの隙間から、矢が・・
結局、神様のご計画からは、逃れられないのですね。王様の乗った戦車には血だまりができて、その臭いに誘われて野犬がやって来たとか。
王様、ナボテの葡萄畑の件で、エリヤから言われたことを覚えておられましたか。アハブ家は滅びると。それも最後は野犬がかかわることを。
恐ろしいことです。あなた様が建てた象牙の家、あれはどうなるのでしょう。
私があなた様にいつも申し上げていたことが、真実であるがゆえに、あなた様は避けておられた。あなた様は真の神様を知っておられた。
それなのに・・選ぶべき道は他になかったのでしょうか?
頭上の木の葉が騒めき出した。眼下の町の灯はチカチカと瞬き、消える様子がなかった。
新しい王が誕生するのだ。