バシャ!
鈍い音がした。
水しぶきが私の顔をぬらし、大きな魚が一匹、水面に躍り上がって水藻に消えた。
私は自分の外套で水面を打ったのだった。
その使い古した外套は、預言者活動を共にした、いわば私の一番近しい同士だ。それで水を撃てと、内なる声が命じたのだ。
内なる声。
突然、雷のように私の脳天を撃ち、熱を帯びたそれは、
私の体力を消耗させた。しかしその声は、祈りに専念した後などに、静かに訪れるのが常だった。
罪の赦しを請い、心を清めていただいて、賛美をささげ、身をもたげると、微かな何かを感じるのだ。
頬にあたる空気のながれ、風に揺れる小枝のささやき、岸辺に打ち付けるさざ波のつぶやき。
そのような物とは異なる内なる気配は、時に、私を取り囲む空気の層の中からも。
私の五感は、確実にそれをとらえることができた。
そして、
母体の中でゆるゆると運ばれている、幼い命のような、
不思議な感覚に浸るのだった。
水鳥が慌てて水面をかけて行く。
エリシャが身を乗り出し、50人のともがらの驚きが、打ち寄せては、引いて行った。
ざわざわと水が騒ぎたち、そして、せき止められた水が壁となり、乾いた道が目の前に現れた。私は川底に足を踏み込んだ。
ああ、
我ら先祖を引き連れ、エジプトの地から決別するため、
乾いた紅海の中を歩まれたモーセよ。これは私と、この世とを区切る結界なのだろうか。
アッというまに渡り切り、川岸に立つと、
「あっ!水がまた・・」
と、うわずったエリシャの声。
私はそのまましばらく、杣道の中を進んだ。目の前にわずかばかり視界が開けた。
すると、
太陽が雲に遮られ、あたりが急に暗くなった。私は振り返って言った。
「エリシャよ。私があなたを離れる前に、私に何を求めますか」
「あ、え?!」
エリシャの喉が大きく動いた。
無防備に胸もとで開いた手がプルプルと震えていた。
「あ、あなたの、に、二倍の力を。✌二倍の力を、私に授けてください。」
変にうわずった声で彼は言った。
「それは難しいことだが、私が、天に引き上げられて行くのを見るならば、あなたはそれを得るでしょう。」
エリシャは目を見開き、コクコクとうなずいた。
ゴおオーオオ!!
その風の音は、今までに聞いたことのないものだった。
髪は乱れ、衣の裾が翻った。草木が騒めきだった。私たちは思わず西の空を見上げた。おお、雲が引き裂かれて行く。雲に包まれ、沈みかかっていた太陽が、激しい閃光を発して、目に飛び込んできた。
その中に、一つの黒点が現れ、みるみる大きくなって迫ってきた。
それは、炎の塊で、真っ赤に燃える馬と、戦車が姿を現した。
再び突風が巻き起こって、私とエリシャの間を引き裂いた。
私たちの間に、あの燃える戦車が割って入り、私の体はその中に吸い込まれた。
エリシャの体は弾き飛ばされていた。
彼の悲鳴が聞こえた。
川の向こうで、慌てふためくともがらの姿が見えた。
「エリヤさまぁぁ!!」
エリシャが手を伸ばしながら、今まで見たこともない形相で走ってくる。
「わが父、わが父‼イスラエルの戦車と、騎兵よ!!」
彼の声が、かき消され、その姿が急激に小さくなって消えた。
私の乗った火の車は、恐ろしい勢いで高みを目指して突っ走った。振り落されそうになる体を必死に支えていると、
するり、と、マントが私から離れて行った。それを目で追おうとしたが、ただ、炎の色しか見えなかった。
・・・・
熱くなかったのですか?🐤
🔥いいえ、全然。
怖くなかったのですか?🐤
🏇ぜ~んぜぇん。
その後、どこに行ったのですか?🐤
🏠それは今、
私の口からは言えません。
ただ、今までに感じたことのない、満ち足りたときの流れの中にいることだけは、お伝えできます。
そして何百年後かに、尊いお方をお迎えするため、⛅雲に乗って地上に現れることも。
あっ!そうです。
あわただしい離別の準備期間中に、私は内なる声の導きのままに、一通の手紙をしたためました。その内容は厳しいもので、ユダ王国、五代目の王様宛てのものです。👑
不思議です。(・・?
今、ユダ王国の王様は、信仰深い四代目、ヨシャパテ王様なのですから。
私は手紙を書いたのですが、その手紙が今、どこにあるのか、わからないのです。(・・?
果たして、
存在していない未来の王様に、無事に届くものでしょうか?📭