二ネべの町を一望できる丘の上に、銀髪の男が立っていた。🗻
その髪は太陽の光を受け、きらきらと輝いていた。✨
手には干からびた唐胡麻*1があって、かさかさと乾いた音を立てていた。
「お前は労せず生えたトウゴマの、枯れたことを惜しんでいるのか。私は12万人の民と多くの家畜の命を惜しむ」
その言葉を彼は引きずっていた。
そして、ここ数か月間の自分の行動が、走馬灯のように目の前で回っていた。
ヤラベアム王2世の政策に賛同し、国力回復に尽力を注いでいたヨナ。そんな彼に神様の言葉が下ったのだった。
「二ネべに行き、民に私の言葉を伝えよ。『二ネべの罪ゆえ、神の怒りが下るぞ!』と」
二ネべと聞いただけで、虫唾が走った。イスラエルは当時、アッシリアに押さえつけられていて、貢ぎも納めていた。二ネべはその首都だ。
「神の怒りが下るって?!⚡
よいではないか。
我らを苦しめる敵国だ。その首都だ。
どうぞ、彼らを苦しめて滅ぼしてください」
ヨナはそう思った。
そんなわけで彼の足は自然と、二ネべとは真逆の方向に動いて行った。追い立てられるような、神の言葉から逃れるために。👣
たどり着いた先が、ヨッパだった。その地はダン族に神様から与えられた地だったが、土着のペリシテ人を滅ぼすことかなわず、地中海沿岸の地域へと押しやられていたのだった。 古くからの港町で、活気にあふれ、たくさんの船が停泊していた。昔、ソロモン神殿を建てるとき、レバノン杉を運び出す通関手続きの港だった。
「さあ、さあ!タルシシ行きだよ~!最終便だよ!もうすぐ出航だ!乗った、乗った!おっと、気をつけな!足を踏み外すんじゃあないよ!]
おりしも、積み荷を終えた大きな船が、とも綱を解き始めていた。ヨナは走った。
「おお~い!待ってくれぇ~!
乗せてくれぇ!」
息を弾ませて船に飛び乗ると、船はゆっくりと岸を離れた。🚢 波に身を任せた船上で、遠ざかる岸壁を眺めていると、ヨナの瞼は重くなってきた。
タルシシはスペイン南部の都市で、ソロモン王治世の頃は盛んに交易をしていた。金、銀、鉄、鉛などの産地で、加工にも優れていて有名だった。
ヨナは、人目を避けて船底に降りて行った。寝付かれない日々が続いたせいか、横になるとすぐ、いびきをかき始めた。
どのくらいたったのだろうか?ヨナの体が、ごろごろと左右に転がって、眼が覚めた。
「わあ!!
誰だ!
寝ているのか!
起きろ!
嵐だ!
船が沈むぞ!」
はて?ここはどこだ?
ヨナは薄暗い船内を見渡した。
それから、みんなの前に引きずり出された。
そこには、恐怖に青ざめた人々がいて、それぞれの神々に助けを求めていた。強風に吹き上げられた雨が波しぶきと混ざって、甲板にぶちまかれ、足が救われそうになる。船が傾くたびに、人々は悲鳴を上げ、身近の物にしがみつくか、ゴロゴロと転がった。
船長は、まなじりを決して、必死に指示を出していた。すでに帆は畳まれ、マストに縛り付けられていた。
「積み荷を捨てろ!
船を軽くするんだ。
急げ!」
それでも嵐は一向にやまず、波風に押され、船の傾きが増すだけだった。
「こんな嵐は初めてだ。
お前さんたちの祈りも、
どうやらあてにならない」
万作尽き果てた船長は血走った目で、恐怖に震える乗船者を見回した。
「何かがあるんだ。
誰だ?神様を怒らせている奴は!
いいか、今からくじ引きをする。
これで原因を突き止める」
そんなわけで、次々とくじ引きが行われ、ヨナの番が来た。
あっ!
周囲の目が彼の指先に集中した。👀👀👀 赤だ!赤い印だ!船員の一人がヨナの胸ぐらをつかんでその頬を殴打した。
「何をしたんだ!
どこから来た!
何のために乗船したのだ!
話せ!」
口の中が切れ、ぬめとした液体が溢れたが、ヨナは飲み込んだ。くじを引く前から彼は観念していた。
「私の名前はヨナ。預言者だ。
ガリラヤのナザレの近くの
ガド・へフェルから来た。
神様から逃れたかったんだ。
しかし、それは無理なこと。
万物をご支配なさるお方から、
逃れることなど不可能だった」
「なんてこった!
お前さんのおかげで、俺たちも海の藻屑か!一体どうすりゃあいいんだ!お前さんの神様に助けを求めよう」
ドド~ン!!🌊
波が船の横腹を打った。メリメリと船が悲鳴をあげ、人々の阿鼻驚嘆が加わり、船は大きく傾いた。動くものはすべて、船の壁に叩きつけられた。海水が人々の頭上に降り注ぎ、大きく流れ込んできた海水に飲まれた。
「皆さん、この嵐の原因は私です。
すでに覚悟は出来ています。
私を海に投げ込みなさい。
そうすれば嵐は止みます」
吹き付ける風と波で、切れ切れになってしまう声。
「おい、みんな。
こいつの神様に祈るんだ。
人殺しにはなりたくないからな。
だが、このままではいけねぇ。
ああ神様、
俺たちに罪をおっかぶせねぇでください。
今からこいつを海にぶち込みますが、
こいつの罪も許してやってください」
とかなんとか、みんなが一斉に祈ってから、ヨナは屈強な水夫に担ぎ出されて、泡立つ海中に放り込まれた。
湧き上がる白い波頭の中に見え隠れする深い藍色の海中へ、ヨナの姿は一瞬に見えなくなった。その後を追うように荒波は吸い込まれ、海上は一瞬で凪いだ。
「はぁ~~???」
船上のみんなはあっけにとられ、肩透かしを食ったような感じで、明るくなった空を、まぶしそうに仰ぎ見た。
太陽が顔を出していた。☀
そしてどこからやってきたのか、
真っ白な海鳥が船の舳先に止まっていた。🐦
・・・・・・・・・・・・・
🐤・・果たしてヨナの命運やいかに。ぴよ!
*1:別名ヒマ、種からひまし油ができる。春に種まき。夏には二メートル近くまで伸びる。傷に弱く、少しの傷でも、すぐ枯れてしまう。