モアブ草原のアラバ渓谷のとある広場に、120歳のモーセは立っていた。
その肌は赤銅色に日焼けし、つやつや輝いていた。
その日は、ホレブ(シナイ山)を出発してから、40年目の2月15日のことでした。
モーセを囲む彼らは、エジプトを出たときの民とは違い、荒野で生まれ育った若者達だ。
そして、アモリ人の王シホンとバシャンの王オグに勝利した、戦いの民でもありました。
モーセが過ぎ去った日々を彼らに語り告げようと思ったのは、自分の命の期限が迫っていたことと、新指導者のもと約束の地へ進み行けと、神様がおっしゃったからでした。
この若者達がヨルダン川を渡る前にこの旅を導かれるお方をしっかりと知ってほしかった。
戦に勝って誇らしげにしている彼らに、勝利をもたらされた方が誰なのか、肝に銘じてほしかった。
寝物語に語り伝えられている民族の歴史を、再確認させたかったからでもありました。
老婆心とはいえ、民の心が浮き草のようであることを、彼はよく知っていたからでした。
モーセは声を張り上げた。
神様が、先祖のアブラハム、イサク、ヤコブに約束された地へ進めといわれたあの時、私は自信がなかった。
それで1000人の長、100人の長、50人の長、10人の長を選び、簡単な問題はそれぞれの長に任せた。
私は神様のお言葉をアロンを通してお前達に伝えた。
あの日お言葉に従って、我らが進めば、11日の道のりで約束の地へと行けたのだ。
しかし、堅固な石垣と背の高いアモリ人を恐た。
神様が居られるから恐れるなといくら私が言っても、彼らは進もうとしなかった。
この有様に神様は言われた、
よろしい。
お前たちが進まないなら、私もお前たちを行かせまい。
お前たちは紅海の道を通って荒野へ進め!!
彼らは、すぐ反応した。
しかしそれは、神様の言葉にしたがったのではなく、武器を手に山を登っていったのだ。
よいか、聞くのだ!
神様が彼らとともには行かれなければ、勝利は無いのだ!!
案の定、散々な目に会って、荒野へと逃げ込むしかなかった。
神様は私をも怒って言われた。
おまえもまた、そこに入ることはできないと。
結局、エフンネの子カレブと、ヌンの子ヨシュアだけが、約束の地に行けると言われた。
荒野での生活は過酷だったが、夜は火の柱、昼は雲の柱が我らを導き、マナや鶉や湧き水で我らを養った。
そうして40年が過ぎ去ったのだ。
そんな時、再び神様は言われた。
進め、進むのだ!!
約束の地を目指せと。
親たちから託された先祖の夢を果たすのだ。
モアブの地はその昔エサウとロトの子孫に与えると
神様が彼らに約束なさった。
だからその地を通る時、争うことなく、金を払って食料を得、水を買った。
我々は神様が禁止された所には近寄らなかった。
それで神様が与えてくださった地を攻めると、一人の兵士を失うことなく相手を壊滅させた。
そしていま、約束の地は目の前に広がっている。
私たちはまだ手にしてはいないが、すでにその地を部族ごとに分割した。
川のこちらですでに手に入れた部族もある。
その部族の若者は家族と家畜を残して武装し、他の部族の先頭に立ってヨルダン川を渡るのだ。
彼らは、かの地を全て勝ち取るまで、家族のともには帰らない
若きヨシュアよ、お前がこの民を導くのだ。
先の戦で勝利したように、主がともに行かれる。
主がともにおられるところには勝利があるのだ。
モーセの言葉はつづきます。
このとき彼は、千人の長に向って話していたのでしょうか?
聞き入る人々の耳に、彼の言葉は凛凛と響き渡って、かすれることはありませんでした。