ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

宮本武蔵

吉岡道場との試合を控えて、不覚にも古釘で足を傷つけた武蔵。
膨れ騰がった足を引きずり京を目指しながら、彼は悩んでいた。
絶対に勝つという心の備えができていなかったのだ。
自分はまだまだ未熟だ。
兵法者として天寿を全うするまで勝ち抜くことが大切だ。
それゆえに、勝つという確信が欲しかった。

突然、古楽の調べが彼を刺激した。
それは神宮に仕える巫女たちの調べで、そこは巫女たちの住む館だった。
彼は館の内に荷物を預けるようにおき、目の前の鷲ヶ岳の断崖を登り始めた。
そして、夜明け前の荘厳な景色の中で確かな手ごたえを掴むのだった。

そのころ、館では見慣れない大小と風呂敷包みを、お通は胸に抱えていた。
それが武蔵のものとも知らずに・・・。

お通は禰宜に世話になりながら、巫女たちに笛を教えていたのだ。
この日、禰宜神領郷士がお通を館に置くことに反対している事を告げる。
汝はもう男を知らぬ清女ではない。神地を穢すものだというのだ。

その言葉を聞きながら、お通の目には、口惜しげな無念の涙が光るのだった。
しかしまた、たびに馴れ、人に馴れ、古い恋を心につけて世間をさ迷っている女を・・・
世間がそう見るのは当たり前かもしれないとも思った。
しかしまた、処女が処女でないといわれることは、忍び難い恥辱をあびたように身がお顫くのだった。

こうしてお通はまた、当てのない旅にさまようしかなかった。

その彼女の脇を、片足を引きずりながら武蔵が通り過ぎていった。



      ・・・・・・・・・・「宮本武蔵」第三巻  講談社