バラクが驚くほど早く、一万の兵士はあっという間に集まった。
彼らは鍛え抜かれた体と、気力も充実し
「打倒シセラ!」、「打倒ヤビン!」で気勢をあげていた。
バラクは彼らを従えて、デボラと共にタボル山に登った。
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この行動は、たちまち軍勢の長シセラの知るところとなり
彼は大いに怒って鉄の戦車900両と、全ての兵士を
ハロセテ・ゴイムからキション川に集結させた。
そうして、最近各地で起こる小競合いに、終止符をうとうとしたからでした。
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デボラとバラクは山の高みから
集まってくるシセラの大軍を眺めていた。
鉄の戦車は平地を埋め尽くし、その眺めは壮観だった。
集まったイスラエルの兵士達がゾクリと背筋が冷たくなった頃
敵兵の剣が一つキラリと反射した。
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デボラは杖でトンと大地を叩いた。
「さあ、立ち上がれ!イスラエルの精兵。
バラクよ、シセラはあなたの手の中だ!」
バラクはぶるっと武者震いし、それから号令をかけた。
一万の兵が大声を張り上げながら山を駆け下ってくると
シセラの兵士は山津波かと思って慌てふためき、
彼の号令など全く耳に入りません。
兵士は逃げ惑い、鉄の戦車はお互いにぶつかりあい、
溝にはまったり散々です。
こうしてあっという間に旗色は決まりましたが、
シセラは一目散に逃げました。
自分の乗った戦車が動けなくなると、
すぐさま飛び降りて駆け出しました。
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彼は人目を避け
ケデシに近いザアナイムのかしの木の所に天幕を張っている
ケニ人ヘベルの所へと急いだ。
ヘベルとは以前から親しくしていたからだ。
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夫ヘベルはいなかったが
妻のヤエルは彼をにこやかに迎え入れた。
「さあ、そこはいけません。
中におはいり下さい。」
シセラは薄暗い天幕の中に足を踏み入れた。
闇になれない彼を、ヘベルの妻ヤエルはさらに奥に導き、
柔らかな毛布で覆った。
その毛布に包まれると、シセラの体は鉛のように重くなり
急に喉の渇きを覚えたので
「どうか飲み物を・・」と言った。
ヤエルは乳の皮袋を開いて彼に飲ませると
また静かに彼を覆った。
気持ちが落ち着くとシセラは言った。
きっと後から人が来て、
「誰か来なかったか?」と尋ねるだろうが、
「いない」と言ってくれ」
それだけ言うと、まぶたがストンと落ちた。
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ヤエルは目まいを起こして倒れそうになりながら
毛布に包まれた塊を固唾をのんで見守っていた。
彼とは以前親しくしていたのだが、
最近のシセラの強引なやり方に
夫も嫌がっていたし
今日の戦のことも知っていて、彼は朝早くから家を空けていた。
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小刻みだった毛布の揺れが、
大きな落ち着いた動きに変るのに時間はかからなかった。
それに微かないびきが加わると
彼女はほっとした。
これから、どうしたものかと思い迷った。
人が来るのを待つべきか・・・、
一眠りして疲れが取れれば
彼はまた人目を避けて逃げてゆくだろう・・
彼女は天幕の釘を手にした。
荒削りの釘の先は鋭利に尖り、彼女の手の中であたたまっていった。
ゴトリ!
血の気の失せた顔で彼女は振り返った。
毛布が揺れた!
右手に槌を握り締めた。
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渇ききった喉から搾り出すようにヤエルは呼んだ。
「シセラ様、シセラ様」
・・・・
返ってくるのがいびきだけだとわかると
彼女は立ち上がり、恐る恐る毛布を持ち上げた。
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・・・****
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バラクがやって来た。
シセラは生臭いテントの中に彼を導いた。
そこに毛布に包まれて横たわるヤエルがいた。
彼のこめかみに真っ直ぐに突き刺さった釘は
ぬめりを持って、てかっていた。
その顔は彼のうちから噴出した血潮に染まり、
赤鬼のようだった。
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・
ヤエルは帰ってきた夫にその時のことを聞かれても
そこだけポッカリと穴が開いたようになっていて
何も思い出せなかった。
ただおびただしい血の痕と
真赤に染まって丸められた自分の服を見て涙が溢れ
夫の胸の中でフルフルと震え、なかなか止まらなかった。
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シセラの死が引き金になって
イスラエルの勢いは増し
ついにヤビンとその国とは完全に滅ぼされた。
それから40年間、
穏やかな日々を堪能するイスラエルの人々でした。
めでたし、めでたし。 (@^^)/~~~・
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