ルツは一瞬目を瞠り、それから目を伏せた。
いつか、その言葉が姑の口から聞くときが来るだろうと何となく思っていた。
だけど、
その言葉が鼓膜を揺すると、
体中の血が逆流し、一気に毛穴を押し開いて、喉が渇いた。
目の前がまぶしく輝いて、姑の姿が消えた。
ドクドクと形よい彼女の胸を打ち叩く心臓。
飛び出しそうな鼓動を、彼女は両手で押さえようとして、胸に手を置いた。
「これは私の思いだから
お前にその気が無ければ聞き流しておくれ。
そのことで、私たちの間が気まずくならない事のほうが大切だからね」
そういって、姑ナオミは嫁のルツに、自分の祈ってきた事を話した。
ナオミは嫁の姿を慈悲深い目でジッと見つめたまま、そっと言葉を切った。
「お母さま、お母さまのお言葉通りにさせてください」
卓上ランプの炎がゆれて、
うつむいたままのルツの頬をやさしく撫でた。(*μ_μ)σ
「ありがとう・・。でも、・・お前が嫌なことはしないでおくれ」
ナオミは念を押した。それから、
「そうだね、ボアズさんなら、きっと、
お前も私も幸せにしてくださるはずだよ」
ナオミは自分に言い聞かせるように言った。
・
日が傾き始めるとルツは、いつもより丁寧に体を洗い清めた。
そして、ナオミが用意してくれた晴れ着に着替え、
化粧を施した。
うっすらと涙の滲んだ目で嫁を眺めるナオミは、
心の中で亡くなった息子たちの事を思った。σ (´,_ゝ`)
「まあ、よく似合っていること。
私の見立ては間違っていなかったわ」
ルツは言ばを失っていた。
しかし、かもし出される爽やかな体臭の中に
姑ナオミは嫁の上気した心を理解して、ほっとした。(✿◕ ‿◕ฺ)
それはナオミも同じで、久しぶりに華やいだ心が躍っていた。
彼女は両手を胸高く組み合わせて、しげしげと前から後ろから嫁を眺め、
それから満足したように、やさしく抱きしめると、
頭からすっぽりとマントを被せた。
手をとって戸口へと導くと、
ルツの姿を闇が包んで直に見えなくなった。
ナオミはドアを閉めた。
ずるずると座りこむと、
白いものが増えた髪がパラパラと肩にかかり
深くなった額の皺を床に押し付けると
神様の加護を祈った。涙が床に落ちた。
・
ボアズは昼間の疲れからか、その夜早めに横になった。
広々とした農地には、刈り取られた麦の束が、月の光を受けて輝き、
切り株が黒く、点となって広がっていた。
風はなく、動くものはなかった。
夜中、彼は寝返りをうった。
その時、この場に相応しくない香りに目が覚めて
足が、何か触れた。
「誰だ!?」
抑えた声で、足元の闇に向かってボアズは言った。
小さな影が揺れ、そして言った。
「あなたは私のゴーエルです」
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