ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

サウル逝く


「もちろんです。
あなたのおっしゃるとおりにいたしましょう」

ダビデは絡みつく人々の視線を,、いとも簡単に跳ね除けて
即答した。小さなざわめきがダビデを取り囲んだが、ダビデは気にしなかった。肩透かしをくった者たちは、いまいましげに唇を噛んだ。王は満足そうにうなずくと

「それでは、私の護衛をしてくれ」

ざわめきは驚きに変わって、王の顔を見つめて静まった。ペリシテ軍はアペクに集結した。
ある日、それぞれの隊の指揮官たちが、
顔を真っ赤にし、息を荒げて、王の前に立った。
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「王様、あなたの周りにいるならず者は、イスラエル人と知ってのことですか?あの者は「万人を打った」と歌でも歌われているダビデです。聞けば、彼らがあなたを護衛し、我らの後からついて来るとか。いけません!危険です。彼らが裏切った時のことを考えてください。」

「まてまて、彼は私の元に逃げ延びて一年以上になるが、何一つ落ち度がない。かって敵でも今は仲間だ・・」

「とにかく、ダビデが後ろからついてくるのであれば、我らは安心して戦うことが出来ません。返してください。」

彼らの勢いに押された王は、ダビデに言った。

「残念だが、そう言うわけだ」

「王様のために、この力を使うことが出ないのは残念です。今日まで、何一つ過ちを犯してこなかったのに・・」

「そのとおりだ。お前には何一つ手落ちはない。無いが、ここはひとまず引き返してくれ軍の士気を乱したくないのだ。」

王はダビデに済まなさそうに言った。

わぁぁぁ・・・よ、良かった〜ぁ・・冷や汗たら〜り・・
ダビデさ〜ん、あなたも内心ホットしたのでは?
いえ、どちらにしても神様の導きがありますから・・
本当ですか?
あのイサクの心境なのでしょうか?*1

次の日早く、ダビデたちは物音も立てずに立ち去った。
彼らの後姿を見送るようにして、ペリシテ軍はイスラエルの地に進軍して行きました。
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そのころサウルは、昨日聞いたサムエルの言葉と、寝不足と、恐れの中で震えながらも、健気に自国の軍をギルボアに集め、敵と対峙していた。サウルはペリシテ人の大群が押し寄せてくることを知ったとき
神様にすぐお伺いを立てた。しかし、祈りによっても、ウリムによっても、預言者の口を通しても、神様のお言葉を聞くことが出来なかった。
気が狂いそうだった。
頼るべきサムエルは、ラマに葬ったばかりだ。
彼は家来に言った。

「占い師を探せ!急げ!聞きたいことがあるのだ」

王は青い顔を引きつるようにして言った。
占い師が見つかると、
サウルは王冠を置き、王衣を剥ぎ取った。
二人の従者を引き連れて、怪しげな家に向かった。

「私のために、術を使って人を呼び寄せてくれ」

女は一瞬顔を隠した。

「どうして私に?サウル王様は、占いを禁止なさったんですよ。もし王様に見つかったら、私の命はありません。あなたは私を試しに来たのですか?」

「いやそうではない。急いでその人の言葉を聞きたいだけだ」

「だめですよ。私の知り合いはそう言われて騙されて、追放されたり、殺されたり・・」

「あなたの命は大丈夫だ。主は生きておられる」

こうした押し問答の末に、主従は女の家に入り、サウルは薄暗い部屋の片隅の椅子に腰を下ろした。

「それで、どなたを呼び出したいの?」
「サムエルだ」

サウルは両手を握り締めながら言った。
女は薄いカーテンの奥に消えた。暫くすると、狭い部屋の中に濃厚な香りが充満し、息苦しさに大きく息を吐き出した。

ガタ!

何かが倒れ、女の悲鳴が薄いカーテンを突き破るように響いた。サウルは瞬時に立ち上がり、カーテンを押し上げた。

「だまされた!あんたは王様だ!」

ひきつった顔で女はサウルを指差し、震える声で言った。

「何が見えるのだ!言え!」

サウルは押し倒すような声で女に迫った。

「神のような方が見える!白いひげが光っている!何か特別な上衣が・・・」

その言葉にサウルは、ガバッとひれ伏した。

「なぜ私を呼び出して、煩わすのだ」

懐かしい声だった。

「助けてください!
もはや私が頼るべき人は、この世に誰もいません。神様さえ、私の叫びに答えてくださらないのです」

「サウル、私は既にあなたに言ったはずだ。そのことが始まったのだ。あなたには人一倍の信仰心があった。しかし、独りよがりのものだった。あの時、アマレク人を全滅させなかったことが、その証拠ではないか。*2今、私があなたに告げることは悲しい言葉しかないのだよ。あなたとその家族は明日、私のところに来る。イスラエルの軍勢もペリシテ人の手に渡る」

絶望だ!サウルの意識は耐え切れず、途絶えて床に倒れた。その音に、二人の従者が飛び込んできて、王の体を支えた。女は冷たい水を、半ばこぼすようにして渡しながら、哀れみのこもった声で言った。

「一日中、何も口になさっておられなかったとは・・。このままではいけません。どうぞ、一口パン食べて、力をつけてください」
「いや、だめだ!何も口にする気はない」

サウルは首を振った。
しかし、従者も女も強いて勧めたので、サウルは黙ってしまった。女は、従者の目の奥を見つめ、うなずくと、その部屋を出て行った。彼女の足は、可愛がっていた子牛の方へと急いだ。
女が部屋のドアを開けた。色よく焦げ目のついた種入れぬパンと、香ばしいにおいを湯気にいっぱいに絡ませた煮物を器に盛って、サウルたちの前に置いた。たちまち部屋は、心地よい温もりと、香りに包まれ、彼らはその器を空にすると、その家を離れた。
空を見上げれば、満天の星々がぼやけて見えた。
主従は黙って道を急いだ。
サウルはこれが、最後の食事だと、覚悟を決めた。

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朝餉の準備の煙が絶えたばかりだとゆうのに、
かすかに小競合いの声が聞こえてきた。
サウルは静まって、兜の緒を締めた。
剣の柄に置く手に力がこもる。

「良いか、最後まで王家の者として、恥じることのない戦をするのだ」

サウルは息子たちの顔をじっくりと眺め、戦の指図をした。*3

あっとゆう間だった。
潮のごとく押し寄せたペリシテ軍に、イスラエル軍は飲み込まれ、多くの者がギルボア山を最後の血潮で染めた。
王子たちの血も流されると、標的はひとつに絞られた。
サウルは果敢に立ち向かい、敵方に多くの負傷者を出させたが、時間の問題だった。いかに気丈に振る舞い、最後の意地を通した所で、体力の消耗いちぢるしく、兜の重みをずっしりと肩に感じて片ひざをついた。
気づけば、幾筋もの矢を身に受け、ざくろのように切り開かれた刀傷からは、絶え間なく血が噴出して、乾いた地面にに赤黒い花を咲かせていた。

「もはやこれまでだ!!剣を抜いて、わしを刺し殺せ!」

サウルは血に染まった顔を従者に向けて叫んだ。
年若い従者は、プルプルと身震いするばかりで
言葉を失って後ずさった。

     「無割礼の者どもに、討たれてなるものか!」

彼は滴る血を左手で拭うと、
若者の持つ自分の最後の剣を引き抜いた。
きらりと天を突くそれは、
一点の曇りも無くサウルの姿を捕らえた。

彼は、はっと息を呑んだ。
その姿は、今までの彼の人生と重なった。
    ああ・・
と驚愕の声を発して、サウルは剣を引き寄せた。
血走った瞳が自分を見つめていた。

 神様〜。私を、この汚れた私を清めてください。

涙が落ちた。
ぼやけていた己の姿が、
鋼鉄の研ぎ澄まされた静けさの中に捕らえられて泣いていた。
忘れていたその澄んだ輝き、すっくと天を見上げた潔さ、風を捉えて歌っているようだ。
サウルの中に、油注がれた日の無垢な心が蘇ってきた。

サムエルよ、私は今、お前のそばに行く。どうか、神様に、この愚かな私を執り成して、許しを請うてくれ・・

彼は剣を立てると、そのすらりと伸びた切っ先に、己の身を預けた。やっと出合えたその、純な心を見失うしなうまいと、サウルは自らの時に、どどめをさしたのだ。
真っ赤な血の海を逃れた切っ先が
日の光を求めて伸びて、きらりと光る。
何かを、見送るようにして、フルフル振るえていた切っ先が止んだ。
若い従者は、ひん剥いた眼でそれを見届けると、遅れまいとして、サムエル王の後を追った。乾いた一陣の風が、物と化した主従をいたわるかのように吹き抜けていった。

ああ、これが見目麗しく、人々が願望した、初代イスラエルの王様の最後でした。

*1:イサク・自分の一人息子を生贄としてささげた。が、危機一髪で、代替の子羊が与えられた。

*2:神様はアマレク人を全滅させ、その戦利品にも手をつけるなとおっしゃったのに、サウルの勝手な解釈で、自分の目に良い物を残し、神様に捧げようとした。

*3:サウルの息子ヨナタン、アビナダブ、マルキシュア