ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

神の箱は天幕の中


神の箱が、特別にしつらえた天幕に置かれると
ダビデは燔祭*1と酬恩祭*2を捧げて民を祝福し,イスラエルの全民衆に、パン菓子一つ、肉一切れ、干し葡萄一房を配った。

大盤振る舞いのダビデ王様。集まった人々は上機嫌で帰っていった。
ダビデも上機嫌だった。今日の素晴らしい出来事を、妻ミカルと分かち合いたかった。宮殿に入るとミカルが特別な装いでダビデを迎えた。綺麗だ! ダビデは彼女を抱きしめようと足を早めた。が、彼の手は伸びなかった。
ミカルの眼差しは、彼女を包むドレスの色とは不釣合いに彼を拒絶していた。

「今日のあなたのお姿といったら、なんと威厳がおありだったことでしょう。酔っ払いの恥知らず、そんなおどけた格好で、民の前に踊り狂われるなんて、さぞかし喝采をお受けになられたことでございましょう。素晴らしいイスラエルの王様ですわ」
ダビデは一瞬耳を疑った。それでも何事もなかったかのよう窓を背にして立った。

ミカルはその姿に心が震えた。
逞しく成長したダビデ
イスラエルの頂点に君臨した夫。
まぶしかった。
しかし今のミカルにはそれを素直に喜べなかった。

なぜ?
                    
ダビデに再会したとき、ミカルは別人だと思った。
荒野を駆け巡り、荒くれどもを指揮してきた彼は、
宮殿で立琴を奏で、父の気配を恐れていた青年ではなかった。日焼けした肌は筋力たくましく、鋼のように光っていた。口元を覆う髭は豊かで、一人思案にくれる時、指先がそれをなでていた。やさしさのこもった眼差しが時折、きらりと厳しい表情に変わるのも驚きだった。

彼女の知らない若い女たちが、ダビデを取り囲んでいるのも我慢がならなかった。当時、王としてそばめを持つことは権力の象徴だったし、近隣諸国と仲良くやってゆくためにも、政略結婚は当然のことだった。しかし、第一夫人として、それらの女たちをまとめるめてゆく力量は、ミカルにはなかった。自分の娘のような若い女たちと、老いた自分とを比較しては落ち込んだ。

逃亡生活中ダビデは、二番目の妻アヒノアム*3をめとり、才色兼備のアビガイルをも妻としていた。そして、ヘブロンに住んでからも、次々と四人の妻を迎え、それぞれ一子を儲けたので、ダビデの子は6人になっていた。

無邪気に駆け回る子供たちの楽しそうな声がわずらわしかった。子供がほしかった。ダビデの・・
アヒノアムとアビガイルが、逃亡生活中の苦労話をするのを耳にするのも辛かった。ダビデが一番苦しんだ時。それを彼女は知らなかった。二人の話が羨ましかった。

彼女は自分の中に逃げ込んだ。ミカルの唯一の砦。
それは第一夫人であることと、サウル王の娘であることだった。彼女はその砦にしがみついた。

父サウルが、次々と妻を迎えてゆくダビデのことを聞いて
、娘ミカルを哀れんでか、ミカルがダビデを逃したことへの怒りからか、部下に自分を嫁がせたことも、彼女にとって心のしこりだった。

夫ライシは彼女をいたわり、やさしく見守っていてくれたが、所詮王からの下されものだった女を、丁重に扱っているだけだっと内心思っていた。夫ライシと引き離された時、ミカルは泣かなかったが、夫が泣きながら何処までも追って来ていることを知った時、彼女は泣いた。
心をかたくなにして過ごした歳月、それは元には戻らない・・・。

ダビデは、姉メラブを愛していたのではないだろうか?
そんな思いがずっとあった。結婚式直前にサウルが式をぶち壊したのだから。
ミカルにとってダビデは初恋の人だった。本当にそうだったんだろうか?美しく人々の羨望の的だった姉。その姉に少しでも近づきたくて、競ったのではないだろうか?悪い癖。

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父はそんな娘の心を利用したのでは・・
ダビデは内心、仕方なく自分と一緒になったのではないだろうか?時々脳裏をかすめ、彼女の心を曇らせた。。

ダビデに再び会える。
しかし、ミカルの心は複雑だった。激しく恋焦がれ、可憐な乙女の心は今の彼女には過去のものだった。実際、離れた年月が二人の間に微妙な距離を与えていて、それは埋まらなかった。

ダビデ、わかって!!

彼女はいつも叫んでいたが、それは声にはならなかった。
だから、ダビデにも彼女の叫びは届かなかった。彼は忙しかった・・

「そうのとおりだよ。
あなたの父上よりも、またその全家よりも、羊飼いだったこの私を神様は選ばれて、この国の王とされたんだ。私の踊りは滑稽だったかい。王家の娘のお前にはそう見えたかもしれないな。しかし、今日の踊りは、お前のためでも民のためでもないのだよ。神様に捧げる感謝の踊りだったんだ。神様に捧げる踊りなら、我を忘れて何度でも踊るよ」
   

そういって、ダビデは自室に入っていった。

ミカルはダビデの言葉にハットしたが、後の言葉が出なかった。ダビデの足音。ドアの閉まる音。それが切なく胸をしめつけた。そうして、召使たちがせわしなく出入りして・・・
静かになった部屋の外にミカルは立っていた。
音を立てずに部屋に一歩入ると(護衛兵はいなかったの?)穏やかな香料の匂いがたちこめ、懐かしいダビデの体臭を薄めていた。

あなた・・

唇がかすかに動いただけで、震える指先が自分の頬にふれた。かすかな寝息が聞こえる。

ああ〜〜・・・

ミカルはうめくようにため息をつくと、
衣擦れの音も残さずに後ずさって、部屋を出た。

う〜、ミカルう〜・・

ダビデが寝返りを打ちながらこぼした言葉。
それは、誰の耳にも届かなかった。ダビデ自身にも・・・(せめて、そうつぶやいてほしいのよね、ひよことしては・・)

ああ、ダビデダビデ、、
神に愛されたあなたは、
ミカルの残した深いため息の中で安らかに眠る。

ダビデはミカルが好きだった。しかし、その彼女から冷ややかな目線でなじられると、たまらない寂しさが彼を襲った。そして、二人の溝を埋める手立てを知らなかった。
  
自分がサウル王から逃れた時、ミカルをも連れ出すべきだったのだろうか。いや、厳しい放浪生活は華奢な彼女には無理だったはずだ。あの時、ああするしか方法はなかったんだ。
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そのやりきれなさを忘れるために彼は闇雲に働いた。
神様が彼と共に居られたので、周囲の国々を次々と倒して国を安定させた。そうして一息つくころになると、なんとなくいこごちの悪さを感じた。神の箱はまだ天幕の中だった。ダビデ預言者ナタンに言った。

  神殿を建てたいのだが・・


*1:すべて焼き尽くす捧げ物

*2:動物の脂肪を供えた感謝の捧げ物

*3:サウル王様の奥方も同じ名前