ダビデ王様はどこ?
王様は自室にこもっていました。身の回りの世話をする家来や召使たちは、口数少なく物音を立てないように気を使い
時々離れた物陰で、さもありなんとうなずき目配せをしています。
こんな王様、今まで見たことありません。自信に満ち溢れた物腰と、精悍な眼差しは、時に空飛ぶ大鷲のように鋭く、人を射殺すほどの力がありました。その立ち振る舞いも麗しく、イスラエルの女たちは、彼の姿を死ぬ前に一目見たいものだと、うわさしあったほどでした。
もちろんひよこだって・・・
ああ、どうしたことでしょう・・・・
もしも〜し、つかぬ事をうががいますが、王様はどうなさったのでしょうか?それに皆様も・・。
あ、わたし、怪しい者ではありません。見ての通りのひよこです。ひよこが話をするのが怪しいですか?世の中、色々ありますから、ひよこが話したからって怪しまないでくださまし。
ほら、どこから見ても善良なひよこでしょ。
おいしそうだ、な〜んて目で、見ないでくださいましね。
毒がありますからね。
本当ですからね。食べたら死にますからね。そうゆうわけで、見た目無害なひよこなのです。
そうそう、昨夜、誰か尋ねてきませんでした?
ちょっと、あんた何を詮索してるのさ。でもね、ホンと、ビックリしてるのよ。
ええわかりますとも、そのお顔の色を見れば・・
でしょ。
それで?
あの女、何と言ったと思う?
さあ・・?なんでしょう?
ウリヤの妻バテシバの召使なんだけど・・奥様が妊娠したってゆうのよ。
まあ、それはおめでたいことで・・
それだったらいいのだけど・・そうじゃないから、ああぁ・・
そうじゃない!? てことわぁ・・・・。
あ、そうそう、ここではなんだから、あのドアの陰に・・
ええ、そうですね。ここで立ち話も・・
ひよこの胸はざわめきだしました。
(たしかご主人のウリヤさんは、今、ヨアブさんの指揮の元、アンモン人と戦っていて、やっとラバを包囲したとか。ひと段落着いたのでもどってきたのかしら?でも、そんな気配はなかったようだけど?だとしたら、奥様のお腹の子は?)
二ヶ月前のことだけど、王様が屋上で夕涼みがてら、外の景色を眺めていらしたら、なんと、女が水浴びをしていたのよ。それが王様のお目にとまってしまって。調べたら、自分の部下の奥さんだったってわけ。
え!水浴び姿をですか!?
王様もそこまでにしておけばよかったんですが、夕食に誘われて・・
綺麗な方だったんですか?
それはもう、月の光のように清楚で。
でも、その光の中に何か人を虜にしてしまうような、口ではうまく言えないわね。とにかく王様を虜にしてしまったわけだから・・
美女が水浴びですかぁ・・絵になりますね。後世の人がいくつも絵を描くわけですね。
*1
え!何のこと?
いえ、何でもありません。
それから王様はあのように沈み込んでしまわれたんですか。
そうなの、お食事もお召し上がりにならないので、どうしたものかと・・
それは心配ですねぇ・・
あら、もうこんな時間だわ。こんなところで油を売ってては・・そうそう、今のこと、ここだけのことだから、他言は無用ってことで。
ぁ、どうもありがとうございました。もちろんです。私の口は堅いのです。鳥のくちばしですから。安心してください。
ひよこも怪しまれないように、すぐ宮殿を出たのですが。
後から聞くところによると、王様は突然立ち上がってお元気になられ、なにやら一通の手紙をしたためると、将軍ヨアブの元に届けさせたそうです。
「親愛なる私のいとこ将軍ヨアブよ。
ヘテ人ウリヤに休暇を与えて家に帰せ」
ヨアブは定期的に戦場報告をダビデにしていました。
ヘテ人ウリヤは、ダビデが放浪生活のときからの戦士で、
勇士だったから、今回の戦場でも数々の功績を挙げていました。
ヨアブはその記事に目を留めたのだろうと思いました。それにしてもなぜ彼だけを?ヨアブはウリヤを送り出してからも首をかしげました?
そして今、ヘテ人ウリヤはエルサレムに戻ってきた。柔らかな春の日差しが彼を包んでいる。その顔には一点の曇りもなく、その足は迷うことなくダビデのいる王宮へと向けられていた。