ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

まずいぞ、このままでは・・・


ダビデを崇拝してやまないウリヤは足を速めた。ダビデ王様に拝謁できるなどと、思ってもいなかったからだ。

いつも気高く、人民にも兵士にも優しく、しっかりとした信仰にたって、イスラエルを導き続ける王様は、彼の誇りでもあった。

サウル王による迫害のさなかでも、ダビデの態度は変わらなかった。いや、だからこそ、
泥沼に咲く真白き花のように麗しく輝いていた。その頃彼のもとに集まった者たちは、手のつけようもない荒くれ男やひねくれ者、社会からのはみ出し者が多かった。
そんな彼らをいつの間にか規律ある兵士に整え、最強の軍団へと鍛え上げた裏には、彼らの心を掴み、ダビデ様のためなら、この命だって惜しくはないと言わしめてしまう、不思議な魅力を彼は持っていたのだ。

彼の指は力強く剣を握り、それを振り回せば誰も近づけなかった。かと思えば、月の光の中で琴をつま弾く姿は、妖精のように美しかった。放浪生活の中でその音色は、幾たびも彼らの心を洗い、その目を潤ませもした。

ウリヤはそんな荒くれどもの姿も、忠誠を尽くした
彼らの姿も、目の当たりにしていた。彼自身も、気さくに気配りの言葉を投げかけてくれるダビデに、ますます傾倒していった。

だから今回、ダビデ王様から謁見がゆるされたと聞いたときには、飛び上がらんばかりに興奮し喜んだ。名誉なことだと思った。

彼は服の塵をパンパンと払い落とし、顔を拭いた。王宮の前で上を見上げると、その威厳に満ちた建物が息苦いほどに彼を圧した。ウリヤは大きく胸を張って息を吸い込んで、ゆっくりと、その階段を上っていった。
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ダビデは機嫌よくウリヤを迎え入れ、その足元近くまで招き入れた。ウリヤは王に深々と敬礼をした。

「よしよし、そんなにかしこまらなくてもよぞ。お前のことはヨアブからの報告で聞いておる。こたびも大きな働きをしてくれたそうだな。それで今回特別に休暇をとらせることにしたのだ。
お前の妻も寂しがっているに違いない、家に帰ってゆくっり休むがいい。なぁに、心配は要らぬ、お前が好きなだけ休むがいい」

王様の寛大な思し召しにウリヤはビックリ。以前、もっと大きな働きをした時もあったのにどうして今回にかぎり?それにまだ戦は終わっていない。彼は少し合点が行かなかったが、静かに頭を下げて退出した。驚いたことに彼の後には、王様からの贈り物を運ぶ者がついたのだった。

ウリヤはしばらく歩いたが、家には帰らず引き返した。そして、城兵たちのたまり場に行き、王様からの贈り物のうち、彼らと分けられる物、食べられる物は共に分け合って食べ、戦談義に花を咲かせた。ウリヤはその夜、彼らと共に寝た。
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ダビデは気持ちよく目が覚めた。これでよし。ウリヤは家に帰り、妻と共に一つベットの中だ。これで腹の子が誰の子かなんて疑ったりもしまい。ダビデは大きく伸びをして、起き上がった。
窓から差し込む陽の光が、久しぶりに彼の心を和ませた。朝の身支度を整え終ったころだった。

「なに、ウリヤが家に帰らなかった!」

王の眉根が不機嫌に盛り上がった。なんと融通の利かないやつなのだ。せっかく用意してやった楽しみをフイにするなんて。

「そうか、わかった。今日の朝食はウリヤととろう。」

ウリヤは昨日のままの着古した兵服のまま現れて言った。

「王様、このような見苦しい格好であなた様と同席し,朝食まで与りまして恐縮です」
「何かまわぬ。その姿こそ王の兵士。お前たちのおかげで,、わしはこうしてここに居れるのだ。そうだ、今晩も一緒に、夕食をとろう。戦の様子を詳しく聞きたいのでな」

その晩の夕食は豪華でした。
上等なワインを勧めさせながら、王は言った。

「せっかくわしが家に帰るようにと言ったのに、なぜ帰らなかったのだね。」

ダビデは相手の顔色を盗み見するようにして言った。
ウリヤは口元に運んだワイングラスをテーブルに戻し、
その手をひざに置いた。

「王様、あなた様のご好意はありがたくお受けいたしました。しかし、一兵士として思うに、今の私にはそれは出来ません。神の箱も仲間の兵も王様のご命令に従って戦い、夜露にぬれて休みます。それなのにどうして私だけが体を清め、清潔なベットで妻と共に体を温めあうことが出来ましようか。たとえ王様のお勧めでも、そればかりはお許しください。」

馬鹿なやつめが。その石頭を割ってやりたいわ。ダビデは心の中で毒づいた。頭をひねったわしの計画が、めちゃめちゃだ。今もあの女の腹の中で、わしの子が大きくなっているのだ。
これはまずい、まずいぞ。
このままでは、部下の兵士が戦場に出かけている隙に、その妻を寝取った王ということになってしまうではないか。わしの顔に泥を塗るきか・・・どうしたものか・・?

ダビデは盛んに酒をウリヤに勧めながら考えていた。

「王様、もうだめですよ。これ以上飲んだら、自分の足で歩いて帰れなくなってしまいますから・・」

ウリヤは顔を真っ赤にさせながら言った。ダビデは彼のことなど考えていなかった。それで、ウリヤの言葉にひどくビックリしながら彼を見た。
やれやれ、きゃつを家に帰すことはあきらめた。どんなに言ったところであいつは帰るまい。それなら別の手だ、!!キラリとアイデアが浮かび、卑劣な思いが彼の心を捉えたが、彼はそれに気づかなかった。

「そうか、そうか、今日はここまでとしよう。明日はヨアブのもとに帰るがよい」
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次の日の朝、ダビデは一通の手紙をヨアブ宛に書き
二日酔いで青白い顔をしているウリヤの手にそれを持たせた。

ヨアブはウリヤの手から王の書簡を受け取った。それを広げた彼の顔色が瞬間曇った。ヨアブはそそくさと書簡箱の中にそれをしまいながら、さりげなく言った。


「ウリヤ、ご苦労だったな。王様はお前に何か言ったのか?」
「それが・・・
王様は私に家に帰って休めと言われました。私もその気になったのですが・・仲間のことを思うとそうもなれず、一晩、城兵と共に過ごしましたら、朝食に招かれ、夕食にも招待されました。上等なワインをたくさんいただきまして、明日は帰ってよいと」

「それだけか? 何かご気分が優れないとか・・?」
    
「いえ別に・・・。ただ、何時になく饒舌で、始終笑顔がたえませんでしたが」

ヨアブは頭をひねった。いったい何があったのだ。
忠実で優秀なウリヤ。逃亡生活中も共に苦楽を共にした優秀なウリヤ。今回手柄こそ上げたものの、何の落ち度も見当たらない。宮殿で何かあったに違いない。ウリヤが言いたくないだけかもしれない

そこに慌しく兵士が駆け込んできた。

「ヨアブ様、敵が城門から打って出ようとしています。あそこの門には、アンモンの勇士がたくさん控えています」

「よしわかった!ウリヤ!旅から帰ったばかりで大変だが、加勢に行ってくれ」
「はい!」

ウリヤは気持ちのよい声を張り上げて、駆け出していった。ヨアブはすぐに指示書をしたためると、飛び込んできた使者に手渡した。

 「勇士ウリヤを先頭に立たせよ!彼の援護をするな!」

ヨアブはダビデから来た文面そのままを書いたのだ。

一人になると、おもむろにダビデの書簡を取り上げ、机に広げると腕を組み、小首を傾けながら乾いた唇を噛んだ。
彼の周りを飛び回る一匹のハエ、そのかすかな羽音が急に愛おしくなった。
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