ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

神様、お慈悲を・・

「なに、ウリヤが死んだ!」
ダビデはことの早いのに驚いた。
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「はい、敵は我々よりも有利な地の利を生かし、城壁から出てきて我らを野に追い詰めました。それで我らも反撃に転じ、城門まで追い返しました。しかし敵を深追いしすぎ、城壁の上から射ての狙い撃ちにあい、味方に死傷者がでました。その中にあなたの勇士ウリヤも居りました。」
「そうか、わかった。
『戦とゆうものはそうゆうものだ。勝つときもあれば負けるときもある。心配せずに、敵を滅ぼすまで戦い抜け』とヨアブに伝えよ」

ダビデは使者が部屋を退出するまで
椅子の肘掛をぐっと握り締めていた。
  
あの堅物男が死んだか・・
ばかなやつめ、わしの言葉にそむいたからだ。わしはこの国の王、王なのだ。今までわしの言葉にそむいたものなど一人もいなかった。お前がわしの言葉を無視したからだ。

ダビデ玉座を勢いよく立ち上がった。気がつけばあの屋上に立っていた。あの夜以来、彼はここには来ていない。一夜限りの華美なひと時の余韻。その中に浸っていた彼。しかし、あの女の召使いがもたらした言葉によって事態は一変した。彼は突然息苦しい石室に閉じ込められたのだった。

しまった、わしとしたことが。

彼は自分の犯した過ちを悔いるより先に、罪の実を払拭するために頭をひねった。あれこれ試して、ついに忠実かつ優秀な部下を死に至らしめたのだった。王の権威をもちいて。
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ウリヤの家はひっそりとしていて、人影がなかった。
あの女はどこにいるのだ。もう、夫の死を知っているはずだ。あの女はそれを悲しんでいるのだろうか。涙があの頬を濡らしているのだろうか・・そう思うと、急にダビデの胸が切なく締め付けられた。

バテシバよ、死んだ者のために泣くな。私がいるではないか。お前はすでに私のもの、イスラエルの王、このダビデのものだ。

あの時、彼の胸の中で彼女が流した涙。肌理細やかな頬にこぼれたそれがあまりにも美しく、彼はそれに唇をあてた。その頬の感触が突然よみがえってきた。

ああ、彼女は今、泣いているのか。飛んでいって慰めてあげたい。もう一度、この胸に抱きしめて・・

ダビデは両手の指を忙しなく揉み解しながら、うろうろと歩き回った。風が出てきた。ダビデの衣のすそがなびき、髪の毛が頬にかかった。ダビデは何かを待ちわびる子供のように、ウリヤの妻の喪があけるのを待った。

その女は泣いていた。悲しみの衣にすっぽりと覆われて、彼女は静かに涙を流していた。部屋の奥ふかくで。
慣れ親しんだ匂いが沁み込んだ小さな部屋。内庭が見渡せる場所に置かれたベットの上。そこで彼女は顔を伏せて、静かに泣いていた。
何の涙だろうか?夫が亡くなったのだ。当然悲しみの涙だろう。しかしそこに、何かしら後ろめたい重たいものが潜んでいるように思えて、彼女は恐ろしさにふるえていた。沸き上がる疑問。それを考えるのが怖かった。
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覆いを下ろした窓の隙間から、青白い月の光が研ぎ澄まされた剣のように、部屋に差し込んできた。
彼女はぼんやりとそれを眺め、
それからぎょっとして身を起こした。

何か自分の心を見透かされているようなその光の中に、
夫のまなざしを感じた。それは彼女の胸に突き刺さった。

あ、あなた・・許してください・・

たまりかねて窓を開けると、その光が広がって華奢な彼女を優しく包み込んだ。中庭にある小さな池に月が映っていてそれが、風にゆっくりと揺らめいた。

あの日からだわ、屋上で体を清めていた時からだわ。*1今では、心も体も汚れ、あなたの前に立てなくなってしまったのは。
あなたが亡くなったと知ったとき、じつは私、ほっとしたのです。こんな私をあなたに知られたくなかったから。
ああ、なんとゆうことでしょう。。。
許してください、あなた。あなたを死に至らしめたのはこの私、私のせい。神様がお怒りなのだわ。私には石打の刑がまっているわ。*2ああ、この子には何の罪もないのに。

あの日、王さまからの要求を拒むことが出来たのだろうか?
あんな夜ですもの、私も生娘ではないのですもの。なにか、心に引っかかるものがあったわ。王様に誘われたとき、断ればよかった? でも、もし私が拒んだら、王様の部下のあなたに類が及ぶのではって、一瞬思ってしまって・・・・。
許してくださいあなた。この喪が空けたら、私も自分の罪を償います。あなたのもとに逝きたいのです。罪を犯した女に神様のお慈悲はあるのでしょうか・・・

主の居なくなった家の中で、彼女は幾度となくその罪を悔い、月の光に向かって問い続けていた。そうしてゆっくりと時が流れて、ある日、

彼女の家の戸が外から大きく打ち鳴らされた。
ダビデ王の使いだった。喪のあけた彼女を、正式に王宮に迎え入れるというものだった。*3

死を覚悟していた女にとって、それは天からの声のように思えた。日増しに存在感を増してきた体。そこに宿る小さな命。その成長と共に彼女も成長し、母としての力が芽生え始めていた。運び込まれる品々は闇の中をさ迷っていた彼女にとって、眩しすぎるほどだった。

王様は私のことをお忘れにはなっておられなかった。
彼女はかすかに淋しく微笑み、わずかに丸みを増した下腹に右の手をそっと当てた。
神様、この子を無事に産み落としたら、どうか私の命をおとりください。あなたのお慈悲におすがりします。どうか夫のもとに逝かせてください。

絞りきってしまったと思われた涙が、滂沱のように一気に溢れて、彼女のほほを流れ落ちた。

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夫の留守に王様を誘惑した女。じつは、玉の輿を狙っていた女。王様がときどきあの場所に立って周りを見回しているのを知っていたとか・・等々、彼女のうわさはあまり良くありませんね。
だけど、やっぱり、
キリスト様につながる血筋。その心根は清く美しく優しい女性であってほしいと願いをこめてみました。一兵士の家に池とかあったのだろうか?そこはひよこの作り出したものですね。。

レンブラントが描いた彼女は、私目には綺麗には見えませんが、ヤン・マセイス ユディトの彼女は清らな乙女のよう・・・

あなたはどちら派?

*1:月のものの汚れを清めていた。清めの儀式

*2:モーセの律法

*3:夫を失った女は90日間喪に服す。しかし、彼女の場合、体形の変化が人目にさらされる前にと、ダビデは急がせたことでしょう