ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

12枚の布

今ヤラベアムは、エジプトの王シシャクのもとに身を寄せている。信頼も厚かったソロモン王がある日突然兵を差し向けて
彼を捉えて殺そうと図ったからだ。

彼にとってソロモン王は崇拝の対象だった。
そんな王に目をかけられたことは名誉で、
その下で働けることは生きがいだった。

ソロモン王がミロの要塞を再建していた時、
機敏に働く一人の若者が目にとまった。

それがヤラベアムだった。
王は彼の並外れた能力と、立ち振る舞いの美しさが気に入り、
直ちにヨセフ族から集められた労働者の監督に任命しました。
彼は王の命に答えて完璧に仕事をこなし
すさんだ労働者たちにはやさしい言葉をかけ
たちまち彼らの心をつかみ
作業の効率は急速にアップした。

王は満足し、ヤラベアムもやりがいを感じた。

そんなある日のことでした。
彼は用事があってエルサレムの郊外を足早に歩いていると、
預言者アヒヤに出会いました。
ヤラベアムは立ち止まり丁寧に挨拶をしてアヒヤの行き過ぎるのを待っていると
彼の目の前でその足は止まった。

そして、話があるからと
少し道をはずれた人影のない野原にヤラベアムを導きました。

アヒヤは汚れのない新しい服を脱ぐと
突然それをびりびりと引き裂いて
乾いた地面に並べました。
12枚の布切れが、今にも飛んでゆきそうだ。
あっけにとられているヤラベアムに彼は言いました。

「あなたは10枚の布切れを取りなさい。

その言葉には逆らえない何かがあって、
ヤラベアムは無秩序に置かれた布を
わけも分からずに拾い上げると、
アヒヤは残りの布を手にした。
それから、しばらく瞑目し
静かな低い声で言った。

「これはイスラエルの神様のお言葉です。
ソロモン王国は分裂します。
あなたは10部族を支配するのです。
今ではない。
ダビデのゆえにそれは伸ばされた。
ソロモン亡き後、そうなるのだ。

神様は言われます。
あなたには王にふさわしい力を授けよう。
ソロモンの道に歩まず
イスラエルの神、主を第一とし、右にも左にもそれるな。
そうすればあなたには祝福が待ち構え
その子孫は永遠に
イスラエルを治めることになろう」

ヤラベアムは目をむき出して、茫然自失。
王国は今を盛りと栄華を極めていた。
今や世界中の富が、自国に転がり込んでくるような気がしていたのだ。
ソロモン王国は永遠不滅だ。
聡明な王様は、私を信頼し、
責任ある地位につかせてくださったんだ。
そんなばかな・

しかし、彼はその地位につくことで、民の信頼が国の繁栄の陰で揺らぎつつあることも知っていた。
それにしても私が王になる・・
10部族のか・・

一陣の風が彼の髪を揺らし、
衣の裾を巻き上げて乾いた土を霞のように散らした。
彼は思わず目を閉じて、風の吹きすぎるのを待った。

風は突然止んだ。

「アヒヤ様・・」

アヒヤはすでにいなかった。
彼はあたりを見回した。
道から外れたそこは、赤い土がむき出しになっていて、
晴れ渡った空がお椀のように覆いかぶさっているだけだった。

幻影か?
彼は幾度も首をひねったが、
手には引きちぎられた真っ白な布が握られていた。
堅く握り締めていた指は硬直し、
反対の手でひとつずつ開いていった。

切れた糸くずがだらりと垂れ下がった
何の変哲もない布切れだった。

彼はしばらくそれを眺め、それから一枚ずつ数えなおした。
一枚、二枚・・・・10枚、確かにあった。

彼は突然恐ろしくなってきょときょとと目を動かした。
そして、布切れをポッケットにねじ込んだ。

それからまたゆっくりと辺りをうかがい、
何かに追いかけられてでもいるかのように
駆け出していた。

その後姿をじっと見つめる鋭い目があった。
それは、ソロモン王へ注進に行くため
ヤラベアムとは反対方向へと走って行った。
それをヤラベアムは知らなかった。

その日からヤラベアムは誰かに見張られているのを感じた。彼の周りにはソロモンが使わした見張りがついたからだった。

三日ほどたったとき、
彼を取り巻く監視の目が狭まった。
彼は危険を感じて母に言った。

「母さん、僕はエジプトに行くよ。
突然居なくなっても心配しないで、
必ず迎えに来るから。
これを見てくれ。
預言者から頂いた10枚の布切れだ。
これは10部族をあらわしていて、
預言者は私に未来について予言をした。
内容は今は言えないけど
悪い話ではないんだ」

ヤラベアムの母は、
息子の話に仕事の手を止めたが、
この子は私には過ぎた子だ、
「自由に生きよ」
と日頃から言っていたので   
何事も無かったかのように再び手を動かしたが、その指先は微かに震えていた。

「そうかい。
お前がいなくなるのは寂しいけれど
お前がしなければならない事をするがいい。
体に気をつけるんだよ。
神様がお前と私を守ってくださるからね」

親子はいつものように夕食を食べ、
少しばかり長めのお祈りをして休んだ。
次の朝も、いつもと変わらなかった。
朝食が終わると、ヤラベアムは仕事に出た。
その彼の背に向かって、母は言った。

「私はいつも祈っているからね」

職場についてしばらくすると、
剣を持った王の役人が彼を取り囲んだ。

「王の命令でおまえは死ぬのだ!」

それからだった。
どこをどう走って逃げたか、覚えていない。
とにかく彼は走った。

私は死なない。
神様が私を10部族の王とされるからだ。

その言葉が彼の苦しい逃避行を支えた。
パロは彼を快く受け入れて、
ヤラベアムはソロモン王が亡くなるまで、その地エジプトに留まった。