エリヤは崖下から吹き上げてくる潮風に身をゆだねていた。
アレク湾の向こうには弧を描いて水平線が広がっていた。
彼が見つめる先の海と空の狭間は、ゆっくりと夜の幕を閉じた。
すると、幼子の頬を滑るようにして、
昼の女王がしずしずと
沢山の侍女を引き連れて上ってきた。
エリヤの顔も服もその光に一瞬包み込まれ、
それから穏やかないつもの景色に変わっていった。
しかし彼のうちには
そのエネルギーが凝縮して、燃えたぎり
今日の出番を待っていた。
湾の南端の沿岸から南東に
35キロも突き出した丘陵地にたたずむ彼の背後では
標高約546メートルのカルメル山が
頼もしげにたたずんでいた。
この場所は古くから、神聖な場所とされ、祭壇が築かれ、
絶えず捧げ物の煙が漂い、
敬虔な祈りが捧げられていたが、
王妃イゼベルの信奉するバアル礼拝が民に浸透すると
人々の関心も真の神から離れ、
いつしか忘れさられていったのだった。
アハブ王を先頭にして、
バアルの預言者とイスラエルの民が到着したのは
それからしばらくしてからだった。
彼はふと我に返った。
彼の後ろではすでにバアルの預言者たちが、
自分たちの祭壇を整え、
薪を積み上げ、
彼らの手順に則って準備された雄牛が乗せられていた。
「さあ、始めてくれ。
火はつけるな。
バアルの神に直接火をつけてもらうのだ」
エリヤの言葉が響き渡ると、一瞬、あたりは静まりかえり、それからバアルに捧げる祈りが始まった。
彼らの足元には
まだ上りきらない朝の光を受けて長い影が伸びていた。
影は彼らの動きに合わせて
縮んだり伸びたりしていた。
バアルよ。われらに答えて、火を下し
捧げ物を焼き尽くしてください」
声をからして叫び続ける彼らに
天からは何の応答もなかった。
狂ったように踊りまわる者もいた。
影も必死に踊った。
そして、徐々に小さくなり、
彼らの足元に隠れて動かなくなった。
エリヤはそれを見ると言った。
「どうした?
お前たちの声が小さいのだ。
バアルは、何かに没頭しているか?席をはずしているのか?それとも旅にでも出ているのかな?ははぁ、寝ているのかも知れないぞ」*1
バアルの預言者はムッとして、ノドを引き裂くような声を出して再び祈りだした。それから慣わしに従って、刃物で自分の体を傷つけ血を流した。
祭壇の上の雄牛の肉には、大きなハエがたかり、預言者の流す血の匂いに群れて踊った。
そのころになると、
初めは彼らを応援していた王アハブも疲れて
仮の休憩所の中でひっそりしていたし、
イスラエルの民も日陰を求めて
散らばっていた。
「イスラエルの民よ、私が立っているこの場所に、新しい祭壇を作るのだ」
エリヤは民を集めると、先に集めておいた12の石を積むように言った。
12個。
御先祖ヤコブの12人の子供たちの数だ。
12部族。
民は伝承を思い出した。いつの間にか、民の足が動き、手が動き、一人、二人と、エリヤの手伝いをしだした。
彼らはエリヤの言われるままに、幅一メートルほどの溝を祭壇の回りに掘った。
エリヤは集められた薪を祭壇の上に乗せ、処理した雄牛をその上に並べた。
「さあ、この捧げ物の上に水をかけてくれ。水浸しにしてくれ。」
惜しむことなく注いだ水は、雄牛を濡らし、薪を濡らし、
薪から滴り落ちて、積み上げた12の石を黒々と染め上げ、幾筋もの流れの糸を引いて、掘られた溝一杯に満ちて留まった。
しかし、干からびた地面は瞬く間に水を吸収して、樽は空になった。
見守る人々の中からざわめきが起こった。
エリヤはそれを聞くと、
それらの声を制するかのように言った。
「もう一度、同じように水を注ぐのだ」
ざわめきはさざ波のようにあたりに広がったが、誰もエリヤに質問することなく、傾きかけた太陽に頬を焼かれながら水を注いだ。
「よし、今度が最後だ。もう一度、同じように水を注いでくれ」
ちょっとぉ、どっからそんなに水があったわけ?近くに湧き水でも・・
三度、同じことを繰り返すと、
溝に留まっていた水がゆっくりと溢れ出し、
気付けば民の足元をも濡らしていた。
なるほどね。神様の恵みが民の所にまで注がれてゆくんだなぁ・とちょっと感動😿。
聖書の他の箇所には神殿から水が流れてきて、深くて歩いて渡れなかったと、預言者のエゼキエルさんが教えてくれますが、ひよこは水鳥ではないし、実際金づちだからこまっちゃうな〜〜ぁ。。。。
そうだ、実際に水は直ぐに吸い込まれてしまった。
それで三回も注いだ。
それでやっと、溝から溢れて流れ出した。
民の心も乾いているのだ。
惜しみなく注がれる命の水、
求める者には、ただであげようと言う方まで現れて、
面倒だから、
あなたの内から溢れ出るようにしてあげようだなんて。(笑)
水道局か?あなたは。水道局は有料だ。
それにしても水のかけすぎでは?
炎天下に長時間いて、脱水症か?
はたして、預言者エリヤは大丈夫なのか?
民の心にざわりと不信が大きく膨らみだしたころ、
崖を駆け上ってきた海風が彼らのほてった顔を、優しくなでて通り過ぎました。