ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

お忘れか?

アハブ王は手入れの行き届いた王宮の庭で、地続きのブドウ畑を見ていた。以前その畑を見学したが、日当たりもよく、そこから眺める景色は格別だった。
ほしいなと彼は思った。
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突然、王はフルフルと首を振った。
それから、あごの下のたるんだ皮膚を右指で摘み寄せた。頭から離れないのだ。あの預言者の言葉が頭の中を駆け廻って。

あの男は、勝利の美酒に満たされていたわしの顔に冷水を浴びせたのだ。あいつは凱旋して来るわしを道端で待っていた。顔に包帯を巻いたまま、敬謙に膝をかがめて言った。

「王様、王様、私は戦に行った者ですが、ある人が私に言いました。
『この人を守りなさい。彼がいなくなれば、あなたの命か、銀一タラント*1を支払うのだ』私は一生懸命、彼を守りましたが、戦が激しくなって、つい彼から目を離してしまいました。そして気付けば、その者の姿も見当たりませんでした。

なんだ、言われたことを守れなかったのか。決まっていることだ、命で支払うのがいやだったら、銀で支払うしかあるまい。

その男はわしからその言葉を引き出すと、突然、背筋をピンと伸ばし、スルスルと包帯をはずした。

ウッ!とわしは首をすくめた。
目の前を小さな虫が横切ったのだ。
わしは無造作にそれを払ったが、それでも虫は、かすかな羽音を立てて、わしの周りを飛び続けた。うっとおしかった。

あのブドウ畑はエズレル人ナボテの土地か・・

彼の命の変わりに、あなたの命を。あなたの民は彼の民にかわる。

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アハブは繰り返し耳に響いてくるその言葉を、追い払うすべを知らなかった。

あの預言者が目に包帯を巻いていた裏には、こんな事情がありました。その預言者は仲間の一人に言った。

私を殴ってくれ。

え、どうした。そんなこと突然言われても・・とてもできないよ。

これは主の言葉だったんです。あなたはそれに聞き従わなかったのでライオンに殺される。

そうして、そのようになった。(そんなぁ〜〜〜)

その預言者は別の仲間に言った。

わたし顔を殴ってくれ。

次の男は何も言わずに手を振り上げた。頼んだ預言者の体が横っ飛びに吹っ飛び、彼の目は赤く腫上がったので、彼はその上に包帯を巻いた。

それから道端でアハブ王の来るのを待っていたのだ。
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アハブはなおもブドウ畑を見ていた。頭の中には、何度も何度も、包帯を巻いた預言者があらわれて、ハラハラと包帯を解きながら、あの言葉を繰り返しているのだった。


彼の命の変わりにあなたの命を、あなたの民は彼の民にかわる。


アペクからの帰り道は勝利の高揚感に溢れ、王はうきうきとしていた。

やっ、おまえは。

王様、神様がおっしゃった言葉をお忘れか?主は言われます。
『私の言葉をひるがえしてあなたはべネハダデを助けた。彼の命の代価を、お前の命で支払うのだ。イスラエルの民もまた彼の民と代わるのだ。

アハブは驚き恐れ、深い悲しみが彼を襲った。そして、王をも恐れずに言い放った預言者の態度が気にくわなかった。

鬱々とした心のままに、彼は思った。今日こそあの畑を手に入れよう。きっと立派な菜園が出来るはずだ。
   

彼は身近な家来を引き連れて、直ぐ隣の敷地、ブドウ畑の細い道を登っていった。その足取りは登るほどに軽やかになり、忌まわしい預言者の言葉も途切れていた。

相手もすぐには首を立てには振る舞い。ナボテの言い値で買いとってやろう。それに、もっと広くて、よいぶどう畑を用意してやってもよいのだ。

ナボテの心は堅かった。

いくらあなた様のお申し出でも、出来ないものは出来ません。
ここは先祖伝来の地です。いくらお金を積まれても、もっとよい畑を頂けてもどうにもなりません。

ナボテは、王の言葉を跳ね除けた。宮殿に戻る王の足は重かった。一足ごとに、ナボテに対する怒りがこみ上げてきて、そして、王としての自分の立場や権威の低さにうなだれた。
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王宮の階段を登る、萎れた青菜のような彼に、更なる重石が圧し掛かってきたのは、フェニキア人の妻の、冷ややかな眼差しが脳裏をかすめたからで、めまいと吐き気が一挙に襲ってきて、食事もとらずにベットにもぐりこみ、海老のように丸まって目を閉じた。

妻イゼベルは衣の裾をひるがえして、夫の寝室に足を運んだ。入り口で少し立ち止まり、ズカズカとベットに近づいた。薄暗い部屋の中央にあるベット。
その上のこんもりと膨らんだそれを、憮然とした面持ちで眺めおろして、夫に聞こえるように、大きなため息をついた。

彼女はベットの脇で、男のように両足を踏ん張って腕を組み、形のよい下唇を、きゅっと噛んで突き出しだ。

*1:60万円