ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

家族が力をあわせれば・・・


彼女は何かよからぬことでも行うかのように、
あたりに目を配って、
それから、そっと両手でドアを閉めた。

夫が突然亡くなって茫然自失の日々。
そんな彼女の前に、目つきの鋭い男たちが現れた。

昼と無く、夜となく、彼らはやってきて、
彼女がドアを開けなければ
大声を張り上げて、ドアを叩き続け、
脅しつけたり、みだらな言葉でやじった。

そんな時彼女は、二人の子供をベットに寝かせ
親鳥のようにその上に覆いかぶさって
静かになるのを待っていた。

死んだ夫に借財があったのだ。

彼女はそれが何のために使われたものか知っていた。
末の子が大病を患ったとき、用立てたものだ。
つましい生活をしていた彼らにとって、
高価な薬を買うゆとりは無く、
やむにやまれず高利の金に手を出してしまったのだ。
それが今、払えなければ二人の息子を差し出せと、
矢も盾も堪らずの催促だ。

恥をしのんで、彼女がエリシャのもとへと走りこむと、
彼は彼女の話に言葉をさしはさむ事も無く、
静かに耳を傾けて、
時折、大きくうなづきながら、
慈愛に満ちた眼差しを彼女に注いでくれた。

    さてどうしたものか・・

  
彼女の言葉が止んで、その目から泪が溢れて、
ひとしきり鼻をすする音などが、
静かな室内にかすかに響いて止んだ。
すると、
彼女の鼻先にうっすらと、高貴な香りが通り過ぎた。
エリシャが礼拝堂の祈りの場から持ち帰った移り香だ。
彼女はハッとして顔を上げた。

目の前にエリシャの顔があって、
その瞳の中に自分の姿を認めたとき、
再び泪が溢れて、エリシャの姿が揺らいだ。
彼のその眼差しが、
自分の心の底にまで注がれているのがわかって、
彼女は恥ずかしさに目を瞬いて、
ふしくれた指をもそもそと衣の中に隠した。

   ところで、あなたの家の中には何があるのかな?

   すべて売りつくしてしまって、
   今は小さな油の壷があるだけです。

   それは良い物が残っていた。
   家に帰ったら、近所の家から器を借りてきなさい。
   一個や二個でなく、たくさん借りて来るんだよ。
   そうしたら、今から私が教えるとおりにやってごらん。
   神様がともに居られる。忘れないように・・・。
彼女はかすかに上気した頬をあげ、
エリシャのもとから辞すると、
足早に家に帰った。

   さあ、ご近所から空の器を借りてきましょう。
   沢山ほしいから、みんなで手分けして集めましょうね。

久しく見たことの無い母親の笑顔と明るい声に
子供たちは急に元気になった。

嬉々として彼らは駆け回り、
瞬く間に大小さまざまな器が集まった。

コトリとかすかな音を立てて、
彼女はドアに鍵をかけ、
薄暗い部屋の中に顔を向けた。

そこには、神妙な顔をした子供たちが自分を見つめて立っていた。
彼女は「こほん」と空せきをして、
二人の前を横切ると、
テーブルの上に置いておいた油壺を両手で持った。
それから子供たちの前に膝をかがめ、
少しばかり声を落としていった。

   これからみんなで集めた空の器に
   この中にある油を注ぎますよ。
  
   少ししかないね。

   そうね、だけどね、
   お父様の先生がそうしなさいとおっしゃったの。
   神様が私たちを守っていてくださるから、
   おっしゃったようにしてみましょうね。

   初めにお兄ちゃんの持っている器に油を注ぎましょう。
   それが一杯になったら、
   お兄ちゃんがしたように、
   あなたも空の器をお母さんの前に持ってきてね。

彼女は末の子の、あどけない瞳を覗き込むようにして言った。

   わかった。
   僕ね、お兄ちゃんより大きいのが持てるよ。

   ふふ、力持ちさんですね。
   あなたには、このくらいの器がいいと思うわ。
   一杯になったら、
   床に一つずつ並べてゆきましょう。

彼女はそれから持ち寄った器に油を注ぎこんでいった。

   凄いね、おかあさん、まだなくならないの?

   まだまだよ。
   さあ、力持ちさん、次の器を用意しておいてね。

こうして彼女の回りを、
油のたっぷりと注がれた器がきれいに並んで取り囲んだ。

   あら!お兄ちゃん、まだまだよ、次の器を持ってきて!

   無いよ! それが最後だよ!
   もう空の器は一個も無いよ。

お兄ちゃんが慌てて叫んだとき、

   とくぅぅぅ〜ん。

壷の油が、まったりとした音を立てた。
こうして最後の器を満たし終えると、
ピタリと油は止まった。

   ああ、やっと止まったのね。

母親は大きく肩を落として、息を吐き出すと、椅子に倒れこんだ。
両手がこわばって壷をなかなか離せなかった。

子供たちに油の番をまかすと、彼女は再びエリシャのもとへと走った。

   おお、そうかい。よくやった。
   それでよい。それでよい。
   家族が力を合わせれば、神様が働いてくださるのだ。
   早速、その油を売って、借財を払ってしまいなさい。
   お前様方の生活は残りの油で支えられる。
   食事の度ごとに主をほめ、主に感謝を捧げるのですぞ。

またまた彼女の目頭が熱くなったのを、ぐっと堪えて、
子供たちの待つ家路へと足を向けた。

知らず知らずに足取りも軽くなり、
親子三人のこれからを思って、
空を見上げた。
その雲の向こうに夫の面影を見かけて、彼女は足を止めて微笑んだ。

  もう大丈夫。
  あなたの忘れ形見の子供たちも
  あれからぐうんと逞しくなりましてよ。
  これからはあの子たちと一緒に、
  あなたが信じて従われた神様を見上げてゆきますから・・

風が強くなってきた。
雲の回りを駆け巡った風は、
たちまちその形を変えさせてしまった。
彼女はゆっくりと歩き出した。