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ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

あなたのために何かをしたい。

列王紀

風が心地よかった。
静かに目を閉じて、
エリシャはこの家の女主人のことを思っていた。
あたえられた部屋はいこごちがよく、食事はおいしかった。
いつしか、これが当たり前のようになって、
彼はふと気づいたのだ。
何か、お礼をしなければ・・
彼は目を開けて、振り向いて、ゲハジに言った。
  
   奥様を呼んできてくれないか。

しばらくすると、彼女が部屋の入り口に姿を見せた。
その足元には猫がいて、
自慢の尻尾をピーンと立て、興味深そうに部屋の奥を覗いていた。

エリシャはゲハジを通して、今までの感謝の言葉を伝え、

   何かお役に立ちたいのだが・・
   王様や将軍に取り次ぐことはありませんか?

と女に尋ねさせた。

女は、しばらくきょとんとした顔で、エリシャとゲハジを眺めて、
それから慌てて言った。

   まあ、お礼だなんて。。。
   とんでもございませんわ。
   聖なるお方に
   この部屋をお使いいただけることが嬉しいのです。
   主人は優しいし、生活も祝福され、
   ご近所の皆様とも平和に暮らしております。
   私は今のままで、十分満足しておりますの。

女は満ち足りた笑顔をエリシャに注ぎながら答えた。

   ミャ〜 

猫が澄んだ目で彼女をジッと見上げた。

    ええ!エリシャしゃまって、
    そんなに高貴なお方だったん?
    そりゃあ、エリヤ様の後を継がれて、今や預言者の総元締め。
    聖なるしとだから、女の人とは直接言葉を交わさなかったのかしら?
    それとも、おねだり事を直接聞いては、相手が答えにくいと思ったのかなぁ・・
    ええ! そうなのぉ?
    もう何度もご厄介になっていて、気心も知れて、遠慮なんか・・
    親しき仲にも礼儀あり。
    そうなのぉぉ? どうなのぉぉ?

    
彼女は思わず足元の猫を両手で抱えると、
足早にその部屋から外に出た。
猫がしきりに鳴いた。

    まあ、ギザギザ耳の白ちゃん、どうしたの?
    そんな悲しそうな声を出して・・
    お腹がすいたのでちゅかぁ?
    ママがお食事を用意しまちゅから、
    そんなに鳴かないのよぉ・・

白ちゃんが、窮屈そうに体をねじって、
するりと彼女の腕の中から抜け出した。
彼女の足が止まり、
空しくなった手のひらを握り締めた。

    そうよ、何もかもが順調で、何もかも満たされているわ。
    そうねぇ、しいて言えば・・・
    白ちゃん、あなたがもう少し
    私の腕の中で甘えてくれさえしたら・・

彼女が、誰にも見せたことの無い表情を、片えくぼに残して、
階段を降りきった時には、
女主人のいつもの顔に戻っていた。

   ゲハジ、どうしたものかね。
   
   あぁ、女主人のことですか。
   そうですねぇ・・・
   そういえば、この家には子供がいません。
   女主人はさっきの猫を
   「ギザギザ耳の白ちゃん」とか言って
   猫をわが子のように可愛がっていますが・・

   そうか!
   それは迂闊だった。
   すまないが、もう一度、彼女を呼んできてくれ。
エリシャは、椅子から立ち上がって、
しばらく部屋の中を歩き回っていたが、
ゲハジと彼女が部屋にやってくると、
その歩みを止めて、再び椅子に腰掛け、
にこやかに彼女を招き入れた。

   先生、見てください。
   あなた様のお言葉どうりに、
   私は子供を抱いておりますわ。
   元気な男の子ですのよ。

彼女は嬉しそうに、幼子をエリシャに見せた。
その子が、エリシャの豊かな髭に触ろうと、
かわいらしい手を伸ばす姿が愛らしかった。
彼女はそんな幼子に目を細めた。

一年前のことだった。
あの日のあの時、   
思いがけないエリシャの言葉に
悲鳴のような言葉を両手で押しとめて、
息を飲んだのだのは。
頭がくらくらした。
聞き間違い?
喉が渇いて、
言葉が出なかった。
そんな私を、このお方はにこやかに見つめ、
もう一度ゆっくりと言ったものだった。

    あなたはその腕に、自分の子供を抱きますよ。
    かわいい男の子をね。

    私が・・? 来年・・・?
    あかちゃんを・・?!
あの時、両手で頬を覆いながら、
エリシャの足元を凝視したのは、
突き上げてくる喜びと、恥ずかしさに、
耳先まで真っ赤に染まった顔を見せたくなかったから。
そして、
慌てて打ち消したのは、
何度も夢破られてきた望みだったから。
涙の谷で諦めを学んだから。
それなのに、
このお方はおっしゃったのだ。

    まあ、先生ともあろうお方が、
    こんなはした女をおからかいになるのですか?
     

少しゆがんだ顔で言う私を、 ( ̄∇ ̄;)
このお方はただ微笑んで、
その日のうちに慌しく、
カルメル山へと旅立って行ったのだ。

それから、ピタリと彼らの姿が途絶えたとき、
やっぱり、たわごとを言ってからかって、
決まり悪くなったんだと納得した。

それなのに、不思議! 
この体が丸みを帯びて、
新しい命を授かって、
月満ちてその産声を聞いたとき、
夫婦ともども驚いて、言葉を失ったものだった。

   みゃ〜〜!

足元で猫が鳴いた。
知らない間に彼もパパになっていた。

子供が笑った。
エリシャの髭に手が届いたのだ。(ノ⌒∇)ノ