『どうか、あなたが豊かに私を恵み、
私の国境を広げ、
あなたの手が私と共にあって、
私を災いから免れさせ、
苦しみを受けさせられないようにしてください』
カタカナ攻めの中にオアシスが。
ヤベツの祈りだ。
なんでも彼の生れるとき、難産だったらしくて、
母親がその子に「ヤベツ」と命名したらしい。
意味は「私は苦しんでこの子を産んだから」だ。
ですが、自分の名前の由来を知った子供は、
母親に随分と負い目を感じたのではないでしょうか?
死ぬ思いまでして自分を産んだ母親。
早く楽をさせてあげなくては、って思ったかも。
それでかどうだか分かりませんが、
イスラエルの神様に祈った祈りが、上記の言葉。
神様は彼の祈りを聞かれたのでしょう。
その兄弟のうちで最も尊ばれた者となったそうです。
一見、自分勝手な祈りのようにみえます。
無味乾燥な家系図の名前の羅列の中にも、
さまざまな出来事やら何やらが織り込まれ、
裏地に現れる人模様は十人十色。
ヤベツの祈りもまた、
その裏に必死にもがく彼の姿が織り込まれているのですね。
苦しみと悲しみ、涙と呻き、ヤベツにしか分からない苦悩。
それらを出し切った後、搾り取ったエキスのようです。
己の無能さを知った者が、
それゆえに必死で神様の裾にすがりつき、
吐き出した言葉。
密室の叫びです。
そんな思いの感じられる祈りです。