わぁぁぁぁあ・・
どうしょう・・・
お弟子さんが慌ててて、
間違った人に、間違って油を注いだのでは?
え!
そんなことは無いって!
神様のお告げだっておっしゃるのね。
預言者エリシャの使者は、
肩で息をしながら、
軍事会議真っ最中の、その部屋の扉を押し開けました。
誰だ!
仁王立ちの若者。
その若者に、部屋中の鋭い視線が、一斉に向けられました。
埃まみれの粗末な服に、埃にまみれた顔、
飛び出しそうに見開かれた目は充血していて、彼らの視線を跳ね返し、まっすぐ中央の席を見据えています。
す、すみません!
引き止めたのですが、
暴れ馬のように、突き進んでしまって・・
後から駆け込んできた兵士の一人が
彼の肩に手を伸ばしたとき、
エヒウ将軍よ、
あなたにお伝えしたいことがあります。
その声は何者をも突き放して、拒むことを許さない力があった。
ざわつく部屋の中央からエヒウが立ち上がり、隣室へ行くと、ひんやりとした空気がざわめきを消した。
使者は体にくくりつけていた油の瓶を手にし、それをうやうやしく目の前に掲げた。
するとエヒウの膝が、無意識に折れて、使者の前に頭をたれていた。
首筋をぬるりと液体が垂れた。
使者が注いだ油がぽたりと床に滴り落ちて、
小さく丸く盛り上がり、黒い染みを残して消えた。
エヒウはそれを眺めていた。
イスラエルの神、主の言葉だ。
あなたを主の民イスラエルの王とする。
あなたはイスラエルの汚れを一掃するのだ。
主君アハブと、彼に属するすべての者を!
イゼベルを!
バアルの祭司たちと、その神殿を、この国から聖絶するのだ!!
エリヤの預言を成就するのはお前だ!!
若者の声とは思えない、雷のような声がエヒウの頭上で響き渡り、ふわりと彼の頬に使者の衣の裾がふれたと思うと、その主は、脱兎のごとく部屋から飛び出して行った。
エヒウは首の油を拭いながら、何事も無かったかのように会議の席に戻った。
使者の声が大きかったので、内容はすでに知られていると思った。が、彼らは内容を聞き取れなかったようだ。
忠実な王の家来たちだ。
あの内容を知ったら、何をされるかわかったものではない。エヒウの背中を冷たいものが走った。
あのおかしな若者は、あなたに何の用があったのですか?
指揮官の一人が、列席の者たちを代弁をするかのように言った。
またもやエヒウの舌が勝手に動いて、さっきの若者の言葉を語りだした。
さっと部屋の空気が張り詰めて、固まった。
それから、がたがたと椅子が動き出すまでは一瞬だった、
彼らは申し合わせたように、着ていた衣服を脱ぐと、エヒウの足元に敷いて叫んだ。
王様バンザ〜ぃ!
あら!簡単に彼は受け入れられたってことは、やっぱり、神様のお働き。
彼はすぐさま戦車に飛び乗ると、エズレルに直行した。
そこには、負傷した王ヨラムと、彼を見舞いに来ていたユダのアハジヤ王がいた。
エヒウは、たちまち二人の王を倒し、イゼベルを倒した。
サマリヤでは、エヒウの凶暴さに震え上がった養育者たちが、彼の言うがままに70人ものアハブの子供たちを倒した。
その印をエズレルに届けた。
それを見てから、彼はサマリヤへ向った。途中で、ユダのアハジヤ王の身内が、王の安否を問うために下ってくるのに遭遇すると、手間が省けたとばかりに42人を倒した。
サマリヤに着くとすぐに、アハブの一族郎党を抹殺。
バアルのためのお祭りをするからと偽って、イスラエル全土から、バアルの関係者を一つ所に集めて皆*!、恐ろしや!!
神様は彼の業績を認めて、その子孫は四代まで、イスラエルの国を治めるとおっしゃいました。
でもね、エヒウはベテルとダンにある金の子牛礼拝を止めませんでした。
だからでしょうか、イスラエルはどんどん弱体化してゆくのです。
エリシャが涙ながらに預言したハザエルは、そのとおりにイスラエルの民を苦しめました。
そうした中でエヒウは28年間、イスラエルを治めて亡くなりました。
さて、アハジヤ王が、エヒウの手にかかってしまったユダ王国は、どうなっているのでしょう?
心配ですね。