次々と悲報が飛び込んできた。
家畜が奪われ、牧童たちか殺された。
それから子供たち全員が建物の下敷きになって死んだと聞いた時、
ヨブは言った。
『我裸にて母の胎を出でたり
又裸にて彼処(かしこ)に帰らん。
エホバあたえエホバ取り給うなり
エホバの御名(みな)はほむべきかな』
ヨブさんの信仰ってすごいぴょ!
だけどぴょ、私も言えるか???
言えないぴょ。何年かたって、それからなら、
少し歯を食いしばって言えない事も・・
い、言えないってば・・・・。
ヨブさん完璧すぎ!!
これはぁ。ついて行けない~びょ!!
神様はその時、
サタンと一緒にヨブの言葉を聞き、
鼻高々に言ったものでした。
「ほれみろ、ヨブはそういう男なのだ!」
やだぁ~!!
神様ったらサタンなんかと賭けなんかしちゃってさ。
いいのですかそんなんで!!
ヨブさんが、あんな風になっちゃったのも神様のせいなんですよ。
サタンが地上の偵察をおえて報告がてら天に帰ってきたときのことです。
神様はサタンの前でヨブの自慢をしました。
頭にカチン!ときたのはサタン。
「ふん!
神様、えこひいきはやめてください!
あいつは、あなたが守っておられるから、
災いにもあわず、健康で元気に働けるのですよ。
それに彼がちょっと動けば、
あなたはその何倍もの祝福を注がれる。
財産や人望、社会的な地位、そのうえ家族に恵まれ健康だったら、
誰だって喜んであなたについてきますよ。
それが無くなればたちまちあなたに愚痴をのべ、
あなたを敬うなんて事はしませんよ。」
「ほほぉ。試してみるがよい。
ただ、ヨブの体に触れるなよ。」
天上でそんな会話があったなんて、
もちろんヨブは知りません。
ひよこも、あなただってしらなかったでしょ。
財産も子供たちも一瞬にして失っても、
主が与え、主が取られたのだ。
主の皆はほむべきかなと、
賛美の祈りを絶やさなかったヨブ。
ヨブって本当は、ロボットだったりして。
こんな模範解答に、またまたカチンときたサタン。
「健康さえあれば人間なんだってしますよ。」
と口を尖らせて言うのに、
「そうか、それではヨブをお前の手に渡してやろう。
しかし、命をとってはならぬぞ。」
それで、全身悪臭を放って猛烈にかゆい皮膚病をうつされたヨブ。
ヨブの妻は冷ややかに夫を見ていました。
それでも夫が可哀想で、それでつい言ってしました。
「何時まで神様にしがみついているのよ!
やめてよね!!
すべてを失ってしまったのよ。
世間の物笑いよ。
もういいわよ!
あなたを見ているのが辛い!
神を呪って死んでくれた方がまだましよ!」
そんな妻の言葉にヨブは言いました。
「何を言い出すんだ?!
神様から幸いを受けたのだから、
災いをもうけるべきなんだよ。」
それからはもう、妻も彼の傍には近寄りませんでした。
ヨブの症状はさらに悪化し、
足の裏から頭皮まで吹き出物で覆われ、
髪も抜け落ち容貌がすっかり変わってしまいました。
ヨブの心の中には悶々とするものが渦巻いていました。
それは何時果てるともわからない問いかけでした。
なぜ? なぜなんだ? どうして??
そんな時、友達が彼を訪ねてきたのでした。
ヨブは三人の姿を認めると、走っていって再会を喜び合いたいと思いました。
しかし、悪臭に耐えかねて鼻を押さえた姿を見て我に帰りました。
ああ何てことだ!
親しい友と挨拶も交わせない体になってしまうとは。
初めは次々と見舞い客が訪れ、接待に追われたものの、
潮が引くように、近所の人の足も遠のき、
吹き出物が全身を覆うと、
顔をしかめて足早に素通りしてゆくようになり、
今、彼の周りを飛び交うのはハエばかりだった。
寂しさと孤独の中、苦しい胸のうちを、
誰かに話したい、聞いてもらいたい。
そうだ!
彼らなら有りのままの自分を受け止めてくれるに違いない。
ヨブは友達の次の言葉を待ち続けて七夜七日過ごしました。
しかし、そんなわずかな希望も叶いませんでした。
期待がどんどん膨れ上がって、自制心も効かなくなって、
ヨブは叫びました。
荒野で叫ぶ獣のように。
三人の友達はぶるっと身を震わせ、
互いに戸惑いの眼差しを重ね合わせました。
ヨブは立ち上がりました。
足の裏から脳天を突き抜けるような痛みが激走り、
それでも歯を食いしばって自分を支え、
丹田に力をためました。
両の手を握り締め、プルプルと震えるほどに力をこめ、
手のひらに伸びた爪をつき立てて、
乾いた舌を喉から引き剥がすようにして吼えました。
すると、ピーンと張られた緊張感がプチンとはじけ、
敗れた唇の痛みは快感に変わり、
言葉が飛び出したのでした。
「私は生れない方がよかったのだぁ!!」
目頭が熱くなり、あたりがぼやけた。
涙がヒリヒリと頬をつたった。
膝頭を両手で掴んで胃の腑に絡みつく異物を掴みだしたかった。
「わぉぉぉぐぐぐ!!」
「そうだ、天を飲み込む蛇レビヤタンが、
月と一緒に私を飲み込めばよかったんだ!
そうすれば、母は私に乳房を含ませず、
父は私を扶養することも無かった。
なぜ私は母の胸元をまさぐり、父の膝の上で笑ったのか?
あの時死んでいれば、そうすれば、
こんな苦しみに会うこともなかった。
今頃、安らかに、王や貧者や奴隷と悪人らと、
ひとつ場所で共に安らかだったはずだ。
今、死を望んでもあたえられず、
苦しみと失望の私に、今日も命が与えられ、
太陽の日差しの中で目が覚める。
ああぁ!!
恐れていたことが、とうとう起こってしまった。
だからって、遊びほうけていたわけではないのに。
ヨブは力尽きてしゃがみこんだ。
灰が舞い上がり彼の背中をうっすらと覆った。
その薄い膜の下で彼は叫び続けた。
なぜ?なぜだ?なぜなんだぁ?!!!!!
飢えた狼?手負いの熊か?!
ヨブの尋常ならざる叫びに、三人の友の腰が引けた。
ヨブはロボットでない、生身の自分をさらけ出した。
恥も外聞の剥ぎ取って、裸になって。
そうだった。
かろうじて身を覆っているのはぼろぼろになった腰布一枚。
ヨブは生れたばかりの赤子のように、
恐れと不安と空腹と痛みに泣き叫んでいた。
産み落とされた赤子を受け止める手があるように、
ヨブは友達に受け止めてもらいたかった。
彼はその確かな手を期待した。
彼らなら、この哀れな自分を受け入れてくれると・・
最年長者テマン人エリパズは、胸がムカついてきた。
ヨブから発せられる悪臭のせい?いやちがう!
彼は、こんなに情けない奴だったのか?
裏切られた気がした。
「おお~ぃ、ヨブよぉぉぉ!
過って、お前の言葉も態度も、我らの手本だった。
お前はみんなの信仰を強め、弱った者を支えたじゃないか。
どうしたんだ?今お前に災難が降りかかった。
今こそお前の信仰を働かせ、
己を奮い立たせて、その勇姿を見せてくれ。
お前は弱音を吐くような奴じゃあない。
死を望むなんぞ、口が裂けても言ってくれるな!!」
一陣の風が吹いて、エリパズは、ごぼごぼと咳をした。
ヨブの声が風とからまって悲鳴のように聞こえたのは錯覚か?
エリパズはなおも咳をし続けた。
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