★(シロ人の預言者アヒヤの回想)
アヒヤは、暗い部屋の中で心を痛めていた。
ヤラベアム王が、
べテルとダンに「金の子牛」の像を置き、🐂
民に礼拝させたと聞いたからだ。
あの日、私はエルサレムの町の外の
やっと自分が休めるほどの、
小さな木陰に立っていた。🌲
相変わらず照りつく太陽の日差しは強く、
ついつい日陰を探していたのだ。☀
目をつぶっていると、
まったりとした空気が取り囲んでいた。
閉じた瞼の中は、もやもやとして明るかった。
あの時、私は一人の男を待っていた。
その男は、ヤラベアムといった。
ソロモンに手腕を買われ、
強制労働の総監督に任命されていた。
陰ひなたなく良く働く男だった。
いっときほど待っただろうか、⌚
私の目の前を歩いて行く者はいなかった。
きっと早朝に出て行って、
陽が落ちる前に帰ってくるのだろう。
何の鳥だったか、🐦
そのさえずりが今も耳元に残っている。
私はそのさえずりの中にさまよっていた。
それからしばらくして
一瞬、風が頬をなぜ、
さえずりが止んだ。
ゆっくり目を開けると、
一人の若者が、
サクサクと、
小気味よい足どりで歩いてきた。👣
彼だ!♡
私の心が叫んだ。
私はその若者が近づくのを待って、
ゆっくりとお辞儀をした。
それから、
若者の先にたって歩いた。
躊躇することもなく若者は従ってきた。
少し行くと脇道があった。
私は迷わずその道を進んだ。
覆いかぶさるような藪道を抜けると、
ぽっかりと空が広がった。
そこは野っぱらで、
2人のほかは誰もいなかった。
その開けた中にずんずん進んでいって、👣
ぱたりと、唐突に止まり、
ゆっくりと振り返った。
手の届くほどの距離に若者がいた。
はっと息をのんで、
立ち止まった時の、
その目は、
澄んでいた。
瞬時に、神様が示されたヤラベアムだと分かった。
あの時、
私は彼を好ましく思ったものだった。💝
私はその若者に、伝えるべき言葉があった。
私は足を止めていった。
「私はアヒヤ。
預言者だ」
今日は、真新しい衣を着てきた。👘
私はゆっくりと、その衣を脱いだ。
それから、
その白い衣を恭しく天に掲げた。
「その衣を12枚に裂け!」
神の声が耳元で響いた。
それで私は力まかせに、ビリビリと引き裂いた。
一枚が二枚に、
そしてさらに引き裂いていって、
12枚になった。
若者は驚きつつも、
私の指先を見つめていた。👀
私はその時、少し汗ばみながら言った。
「さあ、10枚をとりなさい。
イスラエルの神、主はこう言われる。
『私はソロモンの不信仰のゆえに、
その手から国を引きはがす。
そして、
あなたに10の部族をあたえよう。」
若者は一瞬プルっと震え、
いやいやと首を振って後ずさった。🙅
私はずいっと、彼に近寄って、
引き裂いた布を差し出した。
彼は観念したように唇をかみしめた。
指が震えていた。✋
その小刻みに震えた指で布をつかみ、
小さな声で数えつつ、
10枚を手にした。
肩が大きく揺れ、ふうっと息がもれた。
私は彼の手の中の、
白い布を確かめた。
それから、気を引き締めて言った。
「あなたは神に選ばれたのだ。
神の言葉を伝えよう。
『あなたは、
ダビデの神の御心にそって、
定めと戒めとを守るなら、
あなたのために堅固な家を建てよう。』🏠
と神は言われる。」
そうして私たちは分かれた。
後日、このことが
ソロモン王の耳に入ったらしく、👂
彼は刺客に狙われた。🔫
それで彼はエジプトに身をかくした。
時は流れて、
彼は今、10部族を治め、
北イスラエルの王となっていた。
「王よ、私の言葉を忘れたのか!」(# ゚Д゚)
アヒヤは薄暗い部屋の中をうろうろと徘徊した。
彼は年と共に目がかすみ、
昼も夜のようになっていたのだ。
★(ヤラベアム王の妻の訪問)
「アヒヤよ。」
突然、神の声を聞いたアヒヤ。
彼は反射的に床にひれ伏した。
「ヤラベアムの妻が、この家の戸を叩く。
息子が病気だ。」
そしてすぐ、
ドアを叩く音と訪ないの声を聞いた。
「アヒヤよ、お前はこう言うのだ。
ヤラベアムの家は、
その不信仰のゆえに災いだ。
私はその家を滅ぼす。
約束の先祖の地より追放する。
」
アヒヤは、自分の衣の裾を踏んで、
危うく転びそうになりながらも、
よろよろとドアに近づいた。
ドアを開けると、
微かな明かりが届いて、
彼の濁った目が
ぼんやりとした黒い影を認めた。
その影が何か話そうとしたとき、
アヒヤは言った。
「王妃よ。
なぜその身を隠して来たのか。
ヤラベアムに告げなさい。
神は彼を離れた。💔
彼が偶像礼拝を取り入れ、
私の民をも巻きこみ、
私を捨てたからだ。」
アヒヤは大きく息を吸った。
そしてゆっくりと言った。
「あなたの息子は、
あなたがその町に入ったとき
亡くなるだろう。」
「ああ!」
ヤラベアムの妻の手から籠が落ちた。
カシャン!
蜜の入った瓶が割れ、
10個のパンと幾つかの菓子が散らばった。🍰
彼女はそれを拾うこともなく、
衣の裾に足をとられながら、引き返して行った。
アヒヤはその後姿を見えない目で追った。
いつの間に来たのか、
犬がこぼれた蜜をなめ
パンを食べていた。🐶