預言者エリヤの出現は、アハブ王とその妻イゼベルにとって、厄介な存在だった。真の神から民の目をそらさせ、
バアル礼拝を奨励し、率先して偶像礼拝を行っていた王の前に、忽然と現れたエリヤの風貌は、威厳があって、王の権威をもってしても抑えがたかった。
彼、エリヤには、神の怒りの霊が臨んでいたのだ。
特にイゼベルは、真の神の預言者たちの迫害に、躍起になっていた。
そのやり方は熾烈だった。
王に仕える高官オバデヤは見かねて、預言者100人余りを分散して、荒野の洞窟にかくまったほどだった。
エリヤはカルメル山で、バアルの預言者たちと対決し三年半も雨が降らなかった地に、雨を降らせた。
持てる力をすべて出し切った彼を待っていたのは、イゼベルの怒りと、執拗な追跡だった。心身共に、ぼろぼろのエリヤは、追跡者の手を逃れ、ベエルシバのケリテ川のそばに身を潜めた。
そこは、干ばつが襲ってくる前、神に示された場所であり、数々の奇跡によって命を繋がれた場所だった。
そこではザレパテの寡婦の息子を、死から引き戻したことがあった。あれも、これも、すべて全能の神様のお力だ。
しかし、今回の出来事は・・
カルメル山でのあれは、何だったんだ。勝利の高揚感はエリヤから引き剥がされ、ずたずたにひきちぎられて、足蹴にされた。彼の心は虚無感で抜け殻のようになっていた。
王も王妃も、真の神のお力に震えあがり、土ぼこりの地に雨粒が落ちだしたとき、あんなに狂喜して喜んだというのに。
彼らはそれを真の神様のお力だと認めなかったのか?
バアルの預言者の無力さに目をつむったのか?
止まれ、止まれ!
こんな愚かな王や民のために何をやっても無駄だ。
エリヤはベエルシバの荒野の中で、神様の器としての自分の無力さを呪い、死を願ってうめいていた。
そんな彼のもとに、天の使いが現れた。
天の使いは、しなったエリヤの肩に手を置いて言った。
「起きて食べなさい」
ああ、ここ、なぜか目頭がじわんと~~。🐤
エリヤが振り返ると、 焼きたてのパンと、水の入った瓶が・・
エリヤはそれらを飲んで食べた。
すると、今までの疲れがどっしりと彼の上に倒れ込んできて、瞼が抵抗空しく垂れ下がり、ずりずりと眠りに引きずり込まれた。
「はっ?!」Σ(゚Д゚)
どのくらいたったのか、突然、耳元で声がした。
「起きて食べなさい。道が遠く耐えられないでしょうから」
耳元でささやく声には聞き覚えがあり、温もりを肩に感じた。疲れでぼんやりとしていた視界が、今は開け、心臓の鼓動も、力強く全身にエネルギーを送っていた。
目の前には、やはりパンと水があった。彼はガツガツと勢いよく食べた。そして立ち上がると歩きだした。👣
どこへ?
エリヤはそれがどこだか分らなかったが、彼の足は力強く踏み出し、迷うことはなかった。
ええ!
40日40夜、歩いて、ホレブ(シナイ)山へ!👣
カルメル山からベエルシバまで約170キロ。
そこから、モーセが十戒を貰ったホレブ(シナイ)山までは約300キロ。
40日40夜?どこかで寄り道でも?
エリヤは山頂近くで洞穴を見つけると、くずおれるように倒れ込み、幼子のように眠りこけた。
寒さで目が覚めたとき、太陽はまだ地平の向こうに沈んでいて、一日の働きのための序曲を奏でていた。🎻
それは、薄くたゆたう雲を七色に変化させていたが、遠くの山々は黒い影の中にしずまっていた。
エリヤは横になったまま、ぼんやりとそれらに目をやった。頭の中で、目まぐるしく過ぎた日々を反芻していた。
と、彼のいる洞穴の奥から、声が響いてきた。
「エリヤよ、出でよ!山頂に立て!」
彼が、驚いて身を起こしたその時、目の前の大岩に雷が落ちた。眩しい閃光と飛び散る岩。思わずマントに身を隠し、穴の入口にへばりついた。バタバタとマントの裾が風にあおられ、体が激しい振動に揺さぶられ、ばらばらと小石が彼の上に落ちてきた。稲光は留まることなくマントに差し込み、⚡耳をふさいだ指の隙間から雷鳴が鼓膜を叩いた。
神様が、エリヤの前を通り抜けられたのだ。
気付けば、いつの間にか地震も暴風も止み、雷鳴も遠のいていた。🌈
しかし、彼の体は小刻みに震え続けて止まらなかった。
「エリヤよ。ここで何をしているのか」
朝日がエリヤのマントを朱色に染め始めたとき、その声がした。ビクリと頭を動かすと、はらりとマントがずり落ち、太陽のぬくもりが彼を包んだ。🌄冷え切った身の内から、温かなものがあふれてきて、彼の手を濡らした。
彼はあわててマントをつかみ、しっかりと全身を覆いなおした。震える手がまどろっこしかった。神の御光の中にあることの恐ろしさに、心臓がバクバクと彼の喉を圧迫した。慄きが頂点に足したとき、誰かに引き起こされるかのように立ち上がっていた。そして、洞穴の入口へと導かれた。
唇がカサカサだった。ヒリヒリと痛む喉の奥で、空っぽの胃が、ぎゅぎゅぎゅっと萎縮した。空気が押し出されて、彼は声を絞り出した。自分の耳にその声は素通りしていって、今までのいきさつを語り、追ってから逃れていることを告げた。他人の声のようだった。
がくがくと膝がしらがきしみ、エリヤは再び身を沈めた。
「ダマスコに行くのだ。二ムシの子エヒウに油を注ぎなさい。次期イスラエルの王は彼だ。 お前の後を継ぐ者も決めた。エリシャだ。」
こうしてエリヤはホレブ山を後にした。
山を下りるごとに、彼の体は軽くなり、歩幅も伸びて行った。🐾
一人の若者が12くびきの牛を使って畑を耕していた。エリヤは通りすがりに、自分のマントを彼に被せた。するとその若者ははたりと動きを止め、振り返ってエリヤを見た。
「あ、あなたは!」Σ(・□・;)
若者は慌ててエリヤを追った。追い越しざま、彼は両手を突き出して、澄みきった目で真っすぐとエリヤを見た。👀 つづく