ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

これは?! (イザヤ書5)

何だ!これは!

イザヤは心の中で叫んだ。

 

目の前の男は熱に浮かされていた。

どす黒くむくんだ顔には、

乱れた髪が張り付いていた。

ずり落ちた衣服。

むきだしの肩が荒い息をするたびに上下していた。

その男は、

イザヤの存在を蹴散らすように、

わあぁわあぁと子供のように泣いていた。

 

大きく膨れ上がった背中の瘤からは、

奇妙な悪臭が漂い、

熟した膿が寝具を汚し、

寝巻の上にどす黒いシミを作っていた。

 

気が高ぶった男は、

ベットからずるりと落ちて、

床にうずくまった。

 

その 背中が大きく波打って、

うぅ~うぅ~とうめいていた。

こぶしで床をたたき、

イザヤの足元に這い寄ってきた。

イザヤはその手を逃れるように一歩退いた。

 

顔に張り付いた髪の毛の奥で、

熱に浮かされ充血した目が、

ぎらついていた。

その目が一瞬イザヤを捉えた。

 

   あああ!!!!

 

イザヤが退いたその所で彼はまた泣いた。

異様に膨らんだ背中の瘤から、

どくりと膿が出た。

 

   ううう・・

 

男はうめいた。

それから壁際に這いずって行って、

頭を壁にぶっつけ、

握りこぶしで壁をたたき続けた。

深紅の血が壁に花弁のように付いていった。

 

これが王宮のヒゼキヤ王の寝室でなければ、

きっと誰だか分からなかっただろう。

 

王は、

原因不明の吹き出物に悩まされていた。

治療の施しようもなく、

激しい痛みとともに、

日に日に痩せ衰えて行くのが痛々しかった。

そして、

絶えずあふれる悪臭の伴った膿が、

看病する者を悩ませていた。

 

   あなたの病は治らない。

     あなたは死ぬ。

   遺言を書きなさい。

 

イザヤが、神様の言葉を伝えると、

王はうつぶせになった体を起こし、

激しく泣き出したのだった。

 

   神様ぁ~!!

   あなたは私の行いをご存じです。

   まだまだやりかけです。

   するべきことは山済みです。

     私にはまだ息子がいません。

   それでもあなたは、

   私の命をお取りになるのですかぁ!!

  

突然、 

 凄まじい光が窓から差しこんだ。

イザヤは右手で目を覆った。

続いて雷鳴が後を追ってきた。

ビリビリと建物を揺り動かし、

神様のお言葉がイザヤの鼓膜を震わせた。

それはイザヤにしか聞こえない、

神様からの言葉だった。

 

   ダビデの神、主の言葉です。

   主はあなたのうめきと、

   その涙を見られた。

   あなたの祈りに主は答えられた。

   その体は三日で回復する。

   そして寿命を15年延ばそう。

   あなたとこの町を、

   アッスリヤの手から守る。

   その確かな印として、

   アハズの日時計を10度退かせる。

 

 

イザヤはヒゼキヤ王の肩に手をかけて立ち上がらせた。

王の両目から新たに涙があふれ、

感謝の言葉がその口から流れ出た。

 

   わたしがこのような苦しみにあったのは、

   わたしの幸福のためでした。

   あなたはわたしの命を引きとめて、

   滅びの穴から救い出された。

   これは、

   あなたがわたしの罪をことごとく、

   あなたの後ろに捨てられたからですね。

 

イザヤは帰り際、

王の治療にあたっていた医者に言った。

 

   干しいちじくの一塊をはれ物につけなさい。

 

王の主治医がイザヤの言葉通りにすると、

翌日には背中の腫れも引き、

皮膚は乾いて元に戻り、

何事もなかったかのように、

王はベットから起き上がっていた。

 

この著しい回復劇は近隣諸国に知れ渡り、

同盟国バビロンの王の耳にも届いた。

王メロダクバラダンは回復祝いにと、

手紙と贈り物を使者に託した。

宿敵アッシリヤを倒すために、

力を合わせて戦った仲だった。

結果は散々だったが、

最後は神様の御働きで事なきを得た。

絶望の淵から立ち戻った王は、

開襟のあまり、

武器蔵や宝物蔵など全財産を見せてまわった。

アッスリヤの下で絶えず怯えている小国バビロンに、

どうだ、とばかりに、

同盟国としての意地を見せたのだった。

 

その時、

自宅で巻物を広げていたイザヤの背中に、

ゾクリと悪寒が走った。

巻物から目を離し、

左手を顎にあてがって目を閉じると、

ヒゼキヤ王の顔が浮かんだ。

 

   うう~む。。。

 

イザヤはかすかに声を出して、

ガバリと立ち上がり、

外出の支度をした。

 

王宮につくと、

イザヤと行き違いに、

含みのある笑みを残して、

バビロンの使者が帰っていった。

いつもと違う緊張感。

それが緩んでほっとした雰囲気が王宮にはあった。

玉座に座るヒゼキヤ王は、

満面の笑みでイザヤを迎えた。

しかし、イザヤの表情は硬かった。

 

   王様、彼らは何者ですか?

 

   バビロンから来た使者だ。

   快気祝いにわざわざ来てくれたのだ。

   有難いではないか。

 

イザヤの表情は変わらなかった。

 

    彼らに何を見せましたか?

 

    何を見せたかとゆうのか?

    はるばる訪ねて来てくれたのだ。

    ゆっくりと旅の疲れをねぎらい、

    同盟国としての力を見せつけてやった。

    武器蔵や、宝物蔵に案内した。

    彼らは、

    我が国の堅強さと豊かさに驚いていた。

 

イザヤは、哀れみを込めて王に言った。

 

    あなが見せた全てが

    バビロンに運び去られる。

    王子たちも連れ去られる。

 

    なんだって!

    あの小国バビロンが、

    我が国を攻めるとゆうのか?

 

王はあきれたようにイザヤを見た。

 

      それはすぐではありません。

    100年後です。

 

    何、100年後だと。

    ビックリしたぞ。

    わしの生きている間にかと思った。

    もう戦は十分だ。

    限られた命だ。

    私の余生が、

    平和と安全であれば・・

 

イザヤは耳をふさぎたくなった。

この人は本当にヒゼキヤ王なのか?

若き日、

ひたすら真の神を求めたあの純真さ。

自国の民を懸命に神へと導いたヒゼキヤ王なのか。

これが、

建国以来の名君と称えられている王の言葉か。

イザヤは自分の体が急に重くなったように感じた。

目まいがした。

むなしさが疲労の塊となって背中に張り付いてきた。

 

その日は早めに帰宅した。

彼の顔色を見た妻は驚き、

いつにもまして優しく、

かいがいしく彼の世話を焼いた。

寝際に飲ませてくれた苦みのあるスープのおかげか、

ベットに入ると、

激しい睡魔が襲ってきて前後不覚に眠り込んだ。

 

元女預言者の妻は、

そんな夫をいとおしそうに見つめた。

そして、

規則正しい夫の寝息が彼女を安心させた。

 

カタカタと音がした。

どうやら風が強まったようだ。

彼女は足音を忍ばしてその部屋を出た。