ぶるるっ!と武者震いをした後、私は突然覚醒した。
水を飲み干した喉は、滑らかになり、干からびた声はハリをとりもどした。私の気もピーンと張って、若者のように勢いよく手を振りながら叫んでいた。
「皆さ~ん!私は幻を見ました。そこで神様は語られました。先ほども言ったように、神様はイスラエルを愛しておられます」
私の言葉に、会衆も手を振って応えてくれた。
「しかし、
『もう我慢がならない』
とも言われた」
「ええっ!」
会衆の間に困惑のざわめきが、幾重にも重なって広がった。
「それはなぜか?
『選民には律法が与えられている。律法を知っている民が、律法を軽んじている』
主は言われるのだ。知っているからには、選民としての責任が伴う。神様は罰する前に必ず警告し、逃れる道をいつも用意していた。
『しかしお前たちは、私の警告を無視し続けた。弱者を軽んじ、金のために正しい者を奴隷として売った。
正義はどこへ行った!
婦人たちはこの世の贅沢にとっぷり浸かり、路上で哀れみを求める者を無視している。
犠牲の供え物や祭りさえ、形だけで中身が伴っていない。
神殿で私を礼拝しながら、偶像に捧げ物をし、異教の風習にならって、神殿娼婦に身をゆだねている。そんなお前たちの犠牲の捧げ物には反吐が出る!!』
その時、主の怒りにあたりの空気が共鳴して震え、私は恐ろしさに震えた。
幻はなおさらに続いた。
空を覆うイナゴの大群が、草原に襲いかかろうとしていた。
イスラエルの頭上には、焼き尽くす炎が待ち構えていた」
ぞわっと会衆の上に恐れが伝播した。
「その時、私は悲鳴を上げて叫んでいた。
『主よ!お許しください!
イスラエルにはとても耐えきれません!』
すると幻は揺らめいて消えて、
主のお声があった。
『それは起こらない』と」
パチパチと会衆が手をたたいて、安堵する姿があった。
私はそんな会衆を見ながら、気を引き締めなおして言った。
「しかし、次の幻が目の前に広がった。
籠に盛られた夏の果物だ。一見美味しそうだったが、芯が腐っていた。これが、今のイスラエルの本当の姿なのだ」
私は空の彼方を指さして声を上げた。
「祭壇のそばには主が立っておられた。
『柱頭を砕け。その破片を、
民の頭上に降り注げ』
礼拝者は剣に追われて殺され、残りの者は異国の地に奴隷として連れさられるとも言われた」
「そんなばかな!選民にそんなことが起こるはずがない!」
「そうだ!そうだ!」
「羊飼いの戯言だ!」
「気にするな!」
「それでいいのか?」
「へりくだろう。契約のお言葉に耳を傾けよう!」
「もう十分だ!」
会衆の中から様々な言葉が飛び交い、ハチの巣をつついたように騒がしくなった。
「バシッ!」
私の胸のあたりに石が飛んできた。頭にも当たった。思わず手を顔の前に広げると、そこにも石は飛んできた。私はあわててマントで身を覆い、その場から逃れた。まだ日は高かったが、私の心は急速にしぼんでいった。足どりは重く、疲労感が体を地面に押し付けてきた。