ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

ヘビを飲み込む蛇

朝には花開き夕には枯れる花のように
モーセの心は揺れ動いていた。

動きの鈍る身体を鞭打って神の代理人となり、
アロンを自分の代弁者として巻き込んでしまったことへの悔やみもあった。

あの若き日の内から突き上げてくる嵐のような情熱、
そんなものは今、逆立ちをしても湧いてこない。
もう年だと思う。
実際、アロンは83歳だし、自分も80になっていた。

飢饉を逃れ、当時のパロの好意によって
ヤコブ(イスラエル)一族がエジプトに定住してから、
すでに400年という年月が過ぎ去っていた。

その間にイスラエル人の数は増え広がり
それがエジプト人の恐れの元ともなっていたが
エジプトの労力として欠くことのできないものでもあった。

パロはその労力が無くなる事が惜しかった。
だから彼らをがんじがらめにしたのだ。

イスラエルの人々は、朝早くから夜遅くまでレンガ作りに追われた。
パロからワラの提供が止まると、
自分たちでワラの切り株を引き抜いてレンガに混ぜた。
これも限度がある。
それでも、今までどうりの分量を収めるとなると
何も入れないレンガが出来上がった。

そうした苦役のはけ口をかれらは
モーセに向けた。

モーセは、神と同胞の板ばさみになって呻いていた。
その呻きを持っていく場所は、神の前にしかなかった。

そんなモーセ
天地万物を創造した手の届かない偉大な『神』としてではなく、
アブラハム、イサク、ヤコブに、個人的に語られた『主』として、
神はモーセに語りかけられた。
そうして、この言葉・・・
神のごとくなれ・・でなくって、神のごときものとする・・ですよ。
          この言葉もひよこの心にそっと留めておきますね・・・

「みよ我汝をして パロにおけること 神のごとくならしむ 
汝の兄弟アロンは 汝の預言者となるべし」

神との懇ろな語らいはモーセの中に再び
水を得た魚のように
イキイキとした活力を蘇えらせるのだった。


モーセとアロンは、再度パロの前に立った。
命令口調のアロンの言葉に激怒しつつパロは言った。
   「その神の力を見せよ!!」

モーセの指示で
アロンは手にある粗末な杖をパロの前に投げ出した。
たちまち蛇になった。

パロは笑った。
「エジプトにそのような力が無いというのか」
彼は言いながら、控えておいた魔術師たちに命じた。

彼らも杖を投げた。
        蛇になった。

くるりと向きを変えると
赤い舌を出し、鎌首をもたげてアロンの蛇をにらんだ。

周りの家臣たちは、あざけりの色を目に浮かべて見守った。

すると、アロンの蛇も鎌首をもたげた。
あっ!!
魔術師の蛇が、飲み込まれた。

回りから言葉にならない驚愕のどよめきが走った。

エジプトでは、しばしば動物が神として崇められていた。
蛇もそうだった。
そのエジプトの蛇を、いとも簡単にアロンの蛇は飲み込んだのだ!!

一瞬息を呑んだパロではあったが
顔色も変えず
ただ心をますます頑なにした。

照りかえるエジプトの空に
小さな黒雲がポツンと生まれていた。

それがこれからエジプトに起こる
不吉な予兆だとは
そのとき、パロは知らなかった。