ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

アブネルの思惑

アブネルの怒りはすぐに収まり、その後の動きは早かった。それは、今まで何度か頭に描いていた事でもあった。

ダビデとはサウル時代、共に力を競い合い、お互いに尊敬もし、切磋琢磨した仲だ。
彼だったら、サウル家を絶やすようなことはあるまい。
逃亡生活で練られた統率力と人格、品性、人望、どれ一つあげても、彼こそ次期イスラエルの王としてふさしく思えた。彼の下でなら、存分に自分の実力を発揮し、国のために働ける。そう踏んだアブネルは、ダビデに会見の手紙を送った。
その手紙を読んでダビデは思った。
彼が味方になれば、国の統一も一気に進む。

よし、会おう。

ダビデは即決した。
しかし、条件をつけた。
*サウルの娘ミカルを連れてくること。
逃亡生活中にダビデは二番目の妻、アヒノアムをめとり、*1才色兼備のアビガイルをも妻としていた。*2
そして、ヘブロンに住んでからも、次々と四人の妻を迎え、それぞれ一子を儲けたので、ダビデの子は6人になっていた。
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ミカルが再婚したことは知っていた。しかし、ダビデにとって、彼女を手元に引き寄せることは、当然のことだった。ミカルはまだ自分を愛している、と思っていたし、ダビデもまた、彼女を忘れてはいなかった。
それに、初代イスラエルの王サウルの娘をそばに置くことは、一種の箔付けでもあったし、北イスラエルを惹きつける事にも、一役買うはずだ。

しかし、彼の顔はさえなかった。手紙を机の上に置いて、立ち上がったときには、少しばかり眉根を寄せ、手は無意識に、自慢のひげに触れていた。

問題はヨアブだ。ダビデの側近で、軍の長を務めるヨアブ。ダビデの甥で、幼いころより慣れ親しんで、いつもダビデと共に居た。彼は逃亡生活中片時も離れず、ダビデの右腕として機敏に働いた。
しかし、ヨアブの弟が、アブネルに殺されてからは、仇は討つ、と、口角唾を飛ばしながら言い続け、意味もなくサウル家を攻めては、その機会を伺っていた。
ダビデは幾度か、感情に偏りがちな彼をたしなめたが、こればかりは譲れません!の一点張り。

やばい、両者を今、合わせてはダメだ。ダビデはすぐさまヨアブを呼び寄せ、先ごろ小競合いが始まっていた地方の
治安平定のため、急遽そこに向かわせた。これでしばらくは帰ってこれまい。ダビデは苦肉の策に、頭を掻いた。
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アブネルは足を速めた。
イシボセテもすでに了解しての、今回の会見は、ダビデからの条件をかっきりと満たしていて、気持ちの良い会合となるだろう。
既に、イスラエルの長老たちや、サウルの出身部族ベニヤミン人とも話し合っていて、今や、ダビデを王として、イスラエル統一の目論みに何の支障もなかった。
良い手土産だ。彼は、相手を刺激させないように、従者をギリギリの20人とした。
                                           
彼はまぶしい日差しに目を細めながら、後方を眺め、ミカルの輿を確かめた。
ミカルは夫ダビデの逃亡を助けたことで、父サウルの怒りに触れ、無理やり、再婚させられたいきさつがある。

はじめ、ミカルは拒み続けたが、相性が良かったのか、夫となったパルテエルがやさしかったのか、夫婦仲は良かった。青天の霹靂。
つつましい二人の生活に、竜の牙が伸びたのだ。泣きながら妻の後を追いかけるパルテエルを、邪険に押しとどめて
連れ出したミカルのその顔は、終始、無表情だった。

(あれ?・・人前に顔さらしちゃあダメだったよね?
どうして、無表情ってわかったの?・・・
それは、ひよこの想像。)

輿の上でゆれるミカルの、閉ざされたベールの奥で、彼女は何を思っているのだろうか・・
アブネルはちらりと、そんなことを思ったが、前を向いた彼の頭からは、すっぽりと、それらは抜け落ちていた。

そして、
ユダの町ヘブロンが、赤茶けた丘の向こうに見え隠れしだした時には、南北統一後の、麗しいイスラエルの姿と、そのために奮闘した自分の勇姿がダブって、彼の心は若者のように浮き立った。

*1:ユダの山地の長老の娘。長男アムノンを出産

*2:大金持ちのナバルの妻だった。次男キレアブを出産