「新しい都」それを何処にするかは、ダビデの中で何回も練られた懸案だった。
彼は王となるべく油を注がれたが、その権力を自分から取りに行くことはなかった。その時が来たら、どのようにするかは考えていた。サウル王に追われていた逃亡生活中も、彼はさまざまな土地の様子を頭に叩き込んでいた。
ユダの地ヘブロンはアブラハムの時代からあった町で、逃れの町でもあった。住みやすかったが、地理的に南によりすぎていた。
それに比べ、エルサレムはパレスチナの中心で、ベニヤミンとユダの境界線に接していて、イスラエルとユダを統一した新王国の都としてまことにふさわしく思われた。
三方が深い谷に囲まれ、ただ北側だけが開かれていて、
交通の便もよく、住み慣れたユダの山地を南北に道が走り
死海から地中海に通ずる要所でもあり、経済的にも恵まれていた。
ダビデがその地に白羽の矢を立てたと聞いたとき、そこに住んでいたエブス人は驚かなかった。長い歴史の中で、実証されてきた難攻不落の町だからだ。
なに、ダビデが攻めてくる?彼は我らの町の一番弱い者にも勝てまいよ。
彼らはダビデをあざ笑った。それを聞くと、ダビデの負けじ魂に火がついた。
「かならずどこかに弱点はある」
彼は配下の者に、詳細な地図を何回も作成させたが、ようとしてその弱点はつかめなかった。その日もみんなが頭よ寄せ合うようにして、地図を囲んでいたときでした。ヨアブは一箇所を指差して言った。
「もはや、ここしかありません」
彼の指差す先は、水路だった。
「確かにここしかないが、しかしそれは、地中深く押し進み、途中から急勾配の竪穴となっていて、とても人が登ってゆける所ではないぞ、お前も見てきたはずだ」
別の端から誰かの野太い声が、ヨアブの声を押しとどめた。ヨアブは、くっと唇をかんでダビデを見上げた。
「そうか、やはりそこしかないか」
ダビデは示された箇所に目を留めながらつぶやいた。その時、ヨアブのぎらついた目線に気が付いた。。
「やってみましょう。確かに難しいかもしれません。それだけに、相手も油断しているはず。成功すれば、簡単に決着がつくでしょう。王様、わたしにチャンスをください」
ヨアブは口角泡を飛ばす勢いで言った。
なんとしても先回の失敗を挽回したい。彼の言葉にはそんな思いが詰まっていた。ダビデも彼のことが心に引っかかっていて、その心を痛いほど察してか、その目線をがっしりと受け止め、それからゆっくりと首を縦に振った。
集まって膝をつめていた男たちから
驚きと感嘆の声が期せずして起こった。
ゴトリ!
新王国の新しい歯車がゆっくりと動き出した時だった。
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