ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

ダビデ、アブサロムを迎える


「あれから二年か・・」


アブサロムは一人そうつぶやくとキリリッと目じりを上げた。二年間待ってみたが、父ダビデは何も言ってこなかったし、アムノンを罰しもしなかった。タマルはいまひっそりと、アブサロムの用意した隠れ家で生活していた。f:id:pypyhiyoko:20170520164701j:plain
快活で笑顔の綺麗な妹だった。彼女の美貌は若者たちの羨望の的だった。兄である彼にしても、タマルは自慢の妹で、よくあちらこちらと連れ歩いたものだった。
それが・・
かわいそうな妹。見ていろよ。必ずお前の仇をとってやる。

アブサロムは、二年前のあの日からじっと、今日とゆう日を待っていた。
空は晴れ渡り、心地よい風が吹いている。羊たちの毛を刈るのにはすこぶる良い日が続いた。この収穫の祝いの席に父ダビデをはじめ、自分の兄弟たちを招待した。するとダビデは言った。

「みんなが押しかけては、お前の負担が大きくなる」

と辞退した。アブサロムが強いて勧めたが、父ダビデは応じなかった。それで彼は言った。

「それではお父さん、どうか兄弟だけでも祝いの席に招待させてください。今年はいつになく沢山の羊の毛を刈り取ることが出来ましたから」

アブサロムの熱心さに折れて、彼の希望が受け入れられた。ダビデは二年前のタマルの事件を忘れてはいなかった。長男アムノンは腹違いの妹をだまして、力ずくで自分のものにしたあげく、事が終わるとすぐ、彼女を忌み嫌って、犬っころのように追い払ったのだ。

あの時ダビデは激怒したが、アムノンを責めなかった。
バテシバとのことで、色々と騒がれていたときでもあり
彼は父親としての権威を失墜していたのだ。

世間では兄がタマルの仇を討つだろうとの噂もあった。あれから二年。アブサロムはいつも穏やかだった。そうだ、あれから二年もたっているのだ。彼の気持ちも治まっているだろう。17人もの兄弟が集まっている中で、事を起こすはずもないか・・
ダビデは不吉な自分の思いを自嘲しながら打ち消した。

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昼を少し過ぎた頃だった。慌しい足音とともにそれはやってきた。

「アブサロム王子様が、ご兄弟を皆殺しになさいました!」

ダビデはびっくりして立ち上がり、服を裂き、地にひれ伏すように倒れこんだ。周りの者も慌てふためき、恐れ悲しんで服を裂いた。そこにアムノンに悪知恵を吹き込んだ、ダビデの兄シメアの子ヨナダブが駆け寄ってきて言った。

「殺されたのは、お一人だけでしょう。早合点はなりません」

ヨナダブはアムノンとタマルの一部始終を見ていた。それはアムノンの一方的な片思いだった。その切ない思いを何とかしてあげようと、アムノンに悪知恵を授けたのだ。

「仮病で寝ていなさい。お父上様が見舞いに訪れたら、タマルを呼んでくれるようにと頼むのです」

まさか事が終わってすぐ、アムノンがタマルを憎むなどとは考えもしなかった。アムノンは抑えがたい若さの欲望をただ満たしたかったのだ。
タマルの兄が仇をとると耳にしたときから、彼は密かにアムノンの身を案じ、そっと見守っていたが、今日に限って傍にいてやれなかったのだ。

彼は心の中でそれを悔やみつつ、
ダビデに「アムノン以外の子供たちは無事でしょう」と話していると、王宮の見張り番の声が頭上から降ってきた。

「山沿いの道を人が走ってきます。あ!王子様方です!」

王宮の中に小さな歓喜が湧き上がった。一行はすぐに到着し、慌しく王の前に姿を見せた。そうして父の顔を見るとほっとして声を上げて泣いた。家臣も泣いた。王も泣いた。ダビデ家の家族争い。兄弟殺し。
ダビデの脳裏に預言者ナタンの言葉が、がんがんと響き渡った。

「あなたの家から、剣はいつまでも離れない!」

アブサロムは計画どうり、母の実家に逃れた。
それからまた三年が過ぎた。長男を三男の手によって失ったダビデは、周りの者が慰めようもないほどに落ち込んだ。しかし、時の流れの中で区切りをつけていった。そうして、アブサロムに会いたいと思うまでになった。

忠実な家臣は主人の心が読めるのでしょうか。ヨアブ将軍はそれが出来たみたい。それで彼は人に頼んで一芝居を打ってもらった。ところがダビデはそれを見抜いて言った。

「お前にこんな事をさせたのはヨアブだな」
「はい、その通りでございます。ヨアブ様は王様と王子様の事を気にかけておられて、何とか事態を良くしたいと私に指示なさいました」

ダビデはヨアブの心根に打たれ、彼に息子アブサロムを連れ帰るようにと頼んだが、帰ってきた息子との対面は拒んだ。それで、アブサロムは自分の家に帰った。

それからまた二年の歳月が流れた。依然としてアブサロムは自分の家にいた。そうして思うことは、自分の置かれている立場だった。長男亡き後、次男のキルアブが父の後を継ぐことになるのだが、どう見てもその器には見えなかった。アブサロムは焦っていた。父ダビデからは何の音沙汰もないまま、自分は忘れ去られてしまうのか。
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アブサロムはヨアブに何度か使者を送った。しかしヨアブは現れなかった。彼は思い詰めてよし!っと膝を叩いた。彼は笑った。隣の大麦畑はヨアブの土地ではなかったか。

 「火を放て!」

アブサロムは家来に言った。その燃える大麦畑を見つめていると、ヨアブが顔を真っ赤にしてかけて来た。


「あなたの家来が私の畑に火を放っているのを、黙って見ておられるのですか!」

アブサロムは笑顔を引っ込めて言った。

「あなたを何度も呼んだのに来てくれなかった。父の元に行ってくれ」

『何のために私はエルサレムに連れ戻されたのですか?私は父に会いたいのだ。私の罪を許されないのなら、死刑になってもかまいません。私は殺される事を恐れてはいない』

それでヨアブはダビデのもとを訪れて、アブサロムの願いを告げた。
ついにダビデはアブサロムを宮殿に呼び寄せた。ひれ伏す息子アブサロムを見てダビデは駆け寄り、その肩をしっかりと抱きしめた。ダビデの流す涙がアブサロムの手に落ちて、それから床に落ちて広がった。

アブサロムはそれをじっと見つめていた。彼には計画があった。父と再会を果たした今、公にエルサレムの町を歩けるのだ。王の子として。
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彼の口角が不自然にゆがんだ。
ヨアブはそれを見逃さなかった。