ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

シバの女王

「おやまあ、随分話し込んじゃいましたね。」

おばあさんは少しはにかみながら
この店自慢の大きな出窓から空を見上げた。

「すてきな雨宿りでしたよ」

そういって、おばあさんは片手をテーブルの端において
ゆっくりと立ちあがりました。

未来はそんなおばあさんをいたわりつつ、手を差し伸べたが、結局何も出来なかった。

その差し出した手の中に
折り目のない五千円札が一枚手渡された。

「あ、ありがとうございます。
 お釣りですね。
 少々お待ちください。」

未来が慌てて言うと、

「お釣りはいらないわ。
 私の話を聞いてくださってありがとう、
 それに美味しかったわよ、紅茶。」

おばあさんはにこりと微笑むと
年代物の店のドアを音もなく開けた。

すると、真っ白なその髪が
雨に洗われたばかりの日の光を受けて
キラキラ輝き
後を追った未来はまぶしさに一瞬瞼を閉じた。

「あ、ありがとうございました。
 お気をつけて・・・」

そう言いながら、坂の向こうに目をむけると、
すでにおばあさんの姿はなかった。

町の中ほどにあるこの店は、
少しばかり小高い丘の上に建っていて
上り詰めた先がこの店なのだ。
一本道。

どうしちゃったんだろう??
未来は真新しい五千円札を日にかざした。
透かしがちゃんと入っていた。
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この店はおじいちゃんの店で、彼女のお気に入りの場所。
さいころは、学校が終わるといつもここに来て遊んでいた。
両親が共働きだからだ。

今は中3。
今日はおじいちゃんに頼まれて
店番だ。
自給600円。4時間で・・・

彼女は自分の今日のバイト代を計算していた。
それから、首をかしげた。

太陽は随分と傾いているのに
客足はない。
あのおばあさんだけだわ。

そういえば子供のころからこの店に来ているけど
お客さんっていたかしら?
このお店、よく続いてるなぁ??

未来はさっき座っていた席に腰を下ろした。


おばあさんは紅茶を注文すると
客のいない店内を見回し、
未来と目が合うといった。

「客は私だけかしら?」

「ええ、今日一番のお客様です。」

「あら、そうなの。
どうかしら、もしよければこの年寄りの話に付き合っていただけないかしら?」

未来は退屈していたし、
こんな雨の日に
丘を上ってくるような酔狂な人はいないと思ったので

「私でよければ、・・・」

それじゃあ、あなたも何かを注文なさいな。
私のおごりよ。」

それで未来は、紅茶を二つ、テーブルに置いたのだった。

「私のお婆さんのお婆さんのお婆さんの、
またお婆さんの・・・・

とにかく昔のことなのよね。
私のご先祖様から言い伝えられていたお話で、
何でもそのご先祖様も、
外国の宮殿で働いていた人からの又聞きで・・

昔、イスラエルの国にソロモン王様がいらしたの。
賢くてお金持ちの王様だったの。
王様のもとには世界中の富と情報と、
その素晴らしい繁栄を見るために有力な人々が訪れていたそうよ。
     
その中でも飛びっきりのお客様だったのが
シバの女王様だったんですって。
その女王様のお国もソロモン様に劣らないほど繁栄していて
また、その女王様が賢くて美しかった。

知恵が知恵を呼び、
富が富を呼び、
美が美を呼び求めるとゆうのでしょうか。
    
女王様は魔法の鏡でも持っていて、

『鏡よ、鏡よ。
世界中で一番賢くて美しい者は誰ですか?』

きっと、ある時まで

『それは、あなた。シバの女王様です』

いつも鏡がそう言っていたのに、突然、

『それは、イスラエルの王ソロモンです』

とか言われてしまったのかもしれません。

それで女王様はなんとしてもかの地を訪ね、
噂が本当かどうかこの目で確かめたくなったみたいなのね。

女王様のもとに入ってくる情報は魅力的なものだったので  
彼女はとっても興味をそそられて、入念な準備期間を備えてソロモン様のもとを訪ねたそうよ。

まずは贈り物。
十億五千万円相当の金と、
珍しい香料と、宝石。
それから、
ソロモン様をぎゃふんと言わせるための難しい質問。

おめかしだって半端じゃあなかったと思わない?

くふっ」

おばあさんは笑った。
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「私だって昔は花の盛りがあって、
 花小町なんて言われたこともあったのよ。
 ほほほ・・
 年よりはみんなそう言うものよ。
 若さは宝、あなたはとっても魅力的」

未来はギクッと体がこわばった。
つい最近、級友に言われた言葉が

『毛虫!!』

「くふっ。
 若いときには色々あるものね。
 苦しんだり悲しんだりね・・
 そうやって、心は磨かれてゆくものよ。
 毛虫は何時までも毛虫かしら?
 私にはあなたが綺麗な蝶に見えるけど」

未来はビックリしてまじまじと目の前の人を見つめた。
その人は、ゆっくりとカップを口元に運びながら
図星でしょとでも言いたげに
目元が笑っていた。

「女王様は噂は膨らむものって思っていらしたから
ソロモン様のぎゃふんが見たかったのかもしれませんね。

ところがさにあらず・・

宮殿を目にしてビックリ。
宮殿に入ってビックリ。
玉座に飾られたきらびやかな宝石にビックリ。
晩餐会の贅を尽くした料理の数々にビックリ。
かしずく家来や召使たちの立ち振る舞いの美しさにビックリ。
そして、用意していた難問はあっさりと答えられて、王様の賢さに、ただただ、驚く女王さまでした。

『お目にかかれて光栄ですわ。
 私が耳にしたのはほんの砂粒のようなものでした。
 この国の人々は何と幸せなことでしょう。
 ソロモン様をお選びになられた神様は素晴らしいお方です』
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女王様はたちまちソロモン様のファンになってしまわれて、ソロモン様も、女王様の美と知恵と謙遜な心を大いに喜ばれてあっとゆうまに仲むつまじく回廊を歩く間柄となられました。

一体何日滞在なさったのでしょうか?

時はあっとゆうまに過ぎて、とうとうお別れの時がやってきました。
ソロモン王様はあらかじめ用意しておいたお土産のほかに
女王様がほしがるものは気前よくプレゼントしたそうよ。

そうして、女王様は大満足で帰国されたんですって。

噂の噂によれば・・
ソロモン様の子種までほしがられたとか。

ほほほ、最後にこんな落ちになってしまって。。。。。
ごめんなさいましね。

それにしても我が家に
この話が代々伝わっているのはどうしてでしょうねぇ?
それにもう一話、キリスト様のお話もあるんですよ。
それも一度は人様に、お話するのが慣わしになっているなんて・・

おやおや、寝ているよ。
これでは店番も何もあったものじゃぁないなぁ。
 
用事を終えたおじいさんが
いつものエプロンをかけながらつぶやきました。

あたりはとっぷりと暮れて
おじいさんが置いたテーブルの小さなランプが
未来の背中をてらし
その影がゆらゆらと壁をつたい
飛びたつ蝶のように見えました。