ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

今、それを知りました。

それにしてもあの男は何者なのか、
三年が経とうとしていたが
彼女にはよくわからなかった。

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彼の風貌は変わっていた。
伸び放題の髪と髭。
その中にうずもれるようにしてある瞳は、外観に似合わず、いつも穏やかでやさしかった。

らくだの毛のマントをはおり、
皮膚は日に焼けて鋼鉄のようにひかり
引き締まっていた。
彼は朝早く家を出て
彼女がパンを焼き上げるころ戻ってきて
食事を共にした。

それから夕方までどこかへ出かけ、
夕食を食べると、
彼女があてがった二階の部屋に引きこもった。
そうして、なにやらぶつぶつつぶやきながら
部屋の中を歩き回っているらしい。

男になついた息子が、そっと昼間、後を追うと、
近くの山に登って行くのだそうだ。
息子が何度も後を追うが
そのつど、その姿を見失ってしまうそうで、
彼女に不思議そうに告げるのだった。

彼女はそのたびに、
そんなことをしてはいけません、とたしなめるのだが
彼女もまた、興味があって、
息子をきつくは戒めなかった。

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そんな彼女は心ひそかに思うことがあった。
あの子は父親を求めているんだわ。
このささやかな幸せが
少しでも長く続くといいのだけれど・・・。

ある日のことでした。
何時になく和やかな夕食が済むと、
彼女は息子の異変に気づいた。

頬がりんごのように真っ赤だ。
目が潤んで肩で息をしている。
彼の額に手を当てた。
とろりと焦点の定まらない眼差しと
力なく開いた唇。
熱がある。それも尋常じゃぁない熱が!

彼女は急いで息子を寝かせ、
額にぬれた布をあてがった。
小刻みに震える息子の体を
おろおろしながら撫でさすり
必死で看病した。

気づけば、夜は白々と明けていた。

二階のあの男は
いつものように家を出た。

彼女は腫上がった寝不足の顔で、息子を眺めた。
熱は下がっていなかったが、
苦しそうではなかった。
彼女は少しほっとした。
すると、睡魔が彼女を包んだ。

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がくりっと首が大きく揺れて、彼女は驚いたように目を開けた。
男が帰ってきた音で目が覚めたのだ。

反射的に息子の手を握って、血の気が引いた。
くったりとして脈がなかった。


   「ああ〜あぁ〜・・・」
意味不明な言葉が彼女の口からこぼれ、
部屋のドアを慌しく開けて男を呼んだ。

今朝はいつもの甘いパンの匂いがない。
人懐っこい少年のまとわり付くような眼差しもない。
どうしたのか? といぶかったものの、
エリヤはそのまま階段の手摺に手をかけた。
そのとき、
女のヒステリックな声が部屋中に溢れ、
彼の足を引っ張った。
エリヤは踏み出した足をとどめて振り返った。

泣いている。
泣きながら叫んでいる。

「ああぁぁ、死んでしまった!
粉も油もなくならないのに、
なぜ息子は亡くなったのぉぉ。
    
あの時、一切れのパンを食べて
ひっそりと息を引き取っていればよかった。
    
あなたはつかの間の幸せを味あわせて、
息子を失う悲しみで、私の心を引き裂くために、
そのことのために、我が家に来たのですか?」

エリヤはその声のする部屋へと向かった。
部屋に一歩踏み入ると、
少しすえた様な臭いがこもったその部屋の隅には
取り乱して剥ぎ取った上掛けが、
無造作に投げ捨てられていた。

息子を抱きかかえて揺さぶり続ける母親。
その少年の額には前髪がべっとりと張り付いていて、
頭が力なく母の腕からこぼれていた。

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「私にその子をよこしなさい」
彼はそういって母親の胸からその子を引き剥がした。
エリヤはその子を自分の部屋に運び入れ、
ベットに横たえ、
しばらくじっと眺めていた。

「あなたは下で待っていなさい」
いつになく厳しい命令口調で
取りすがる母親を部屋から追い出すと、
エリヤはガバっと跪いた。

「神様、あなたは私が世話になっている
この家の幼子の命まで断たれるのですか。
どうか、この子の魂を元に戻してください」

彼は大声で祈り続けた。
そうしてふっと力を抜いて立ち上がった。
何かがエリヤの体に注がれたようだった。
彼は横たわる少年の体に身をかがめた。
三度、そうした。

見る見るうちに少年の頬に温かなぬくもりが宿り
気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。

「神様、ありがとうございます」
エリヤは天を見上げて叫んだ。


彼は少年が目を覚まさないようにそっと抱きかかえると
静かに階段を下りた。

二階のドアが開いた時、
母親は身を乗り出して、階上の様子に耳をそばだて
出てくるエリヤの胸に抱かれた息子を凝視した。
二人の目が合った。
エリヤは微笑んだ。

駆け寄って差し出す母親の腕の中に
息子を返すと言った。
「ご覧なさい。
可愛い寝息を立てて眠っています」

涙が息子の頬に落ちた。
かすかに瞼がうごき、
愛らしい瞳がきょときょととあたりを見回して、
母親を認めると、
白い歯を見せて笑った。
彼女は吹きこぼれそうな涙を
その柔らかな頬で抑えるかのようにして
愛しい我が子のその上に顔をうずめた。

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それからしばらく、
ベットに横たわる息子の安らかな寝顔を見ていた母親は
上気した顔でエリヤの前に立つと言った。
「あなたは本当に神の人です。
今までよく分かりませんでしたが、
今、それを知りました。
あなたの語る言葉は真実で、
神様からのものであることを」

ふたたび平穏な日々が始まった時、
神様の声がエリヤに届いた。

「私は雨を降らそう。
アハブのもとへ行け」

別れを嘆く母子に、背を向けて歩き出したエリヤ。
そのまなざしは一瞬にして、
鋭い戦士のそれに変わっていた。

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本当のものを見極めるためには
粉や油ではだめだったってことかしら?
「命の代償」それでやっと目から鱗。。。