ビリ! ビリ、ビリッツ!
唇が歪み、奥歯がギリギリとなる。青筋が手の甲に浮かびあがり、エリシャは着ていた着物を裂いた。
大きく踏ん張った足元には、師エリヤの外套が無造作に置かれていた。
そのまま、彼は動かなかった。
どのくらい時が過ぎたのだろうか?とてつもない時間が過ぎ去ったようにも感じたが、足元の影はさして動いてはいなかった。
腰を折り曲げ、手を伸ばした。そして、残されたエリヤの外套を掴んだ。何か特別な力が、身の内に入り込んでくるのではと畏れたが、何事も無く、力んだ腕は拍子抜けするように、軽々と彼の胸元に外套を運んだ。
エリシャは踵を返した。
ついさっき、エリヤと歩いてきた道だ。よく見れば、その足跡が所々に微かに見て取れる。彼は無意識にそれらの跡を消すまいと足を進めて、ヨルダン川のほとりに立った。川は、静かに水を運んでいた。
アッ!
帰ってきた!
お一人だ!
待機していた預言者仲間が、あたふたと、対岸の川岸に駆け寄って来て、騒いでいたが、エリシャの耳には届かなかった。
彼は足が濡れるのもいとわず、ずかずかと川岸に降りていった。川面を照らす陽の光が、挑むように睫の間から刺し貫いて、エリシャの瞳がギラリと異常に光った。
彼はエリヤの外套でバサリと川面を打った。
恐れがあった。
師はこれで水を打ち、
川をせきとめ、
川底を乾かし、
二人でそこを歩いた。
わたしにそれが出来るだろうか?
師の力の、二倍の力。
それをわたしは継ぐ事が出来ただろうか?先生のようになれただろうか?
彼の手元に水を含んだ外套が戻ってきた。
あぁ、、、、
エリシャの口から失望と落胆と、悲鳴を押し殺したような呻きがもれた。
彼の目が、何者かを探すかのように、キョトキョトあたりをおよぎ、それから、頭上に広がる雲一つ無い空に向けられた。
エリヤの神よ!主はどこにおられるのですかぁ〜〜!
胃の腑の底から搾り出したその言葉は、彼の必死が絡まって、鮮血がほとばしっているようだった。
エリシャは再び外套を束ねて肩にかけ、大きく弧を描いて振り下ろした。裾に溜まった水が、しぶきが、キラキラと彼を包み、それから水面に飛び散って、バサリと外套の裾が一瞬、水に隠れた。
おおっ〜!
エリヤ様のお力が、
エリシャ様に引き継がれたぞ!!
あー!
川底を歩いておられる!
対岸から見ていた預言者たちに畏れが広がり、地にひれ伏してエリシャを迎えた。
お願いです!
エリヤ様を探すことを許してください。お体を引き取って、丁寧に葬らせてください。
いや、先生のお体は、すでにこの地上にはありません。天に引き上げられました。わたしがその目撃者です。
そんな・・・・
ここに50人もの屈強な若者がいます。もしかしたら、谷底かどこかにお体があるかもしれません。探させてください。
こんな押し問答が何度か繰り返された。
エリヤ様のお体を見捨てられるのか!?
お前はそんなに薄情者なのか!
見損なったぞ!
とか何とか、エリシャを責め始めました。それでエリシャは空しい行為だと知りながらも、彼らの意向を酌んで許可しました。
しかし勢い込んで、必死の捜索を三日間も続けたにもかかわらず、エリヤの姿を見つけることはかないませんでした。
その報告を聞いたエリシャは、空しい行為だと言っておいたのに・・・と、一人呟くのでした。
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ひよこも、夢でも見たのでは?って思ったりなんかしたけど、本当なんだ。そういえば、以前、エノク爺様も・・
その人、
世界で始めて船を造ったノアおじ様の曽祖父にあたる人で、365年も生きたのよねぇ〜〜
その爺様も体は天に引き上げられたのだ!
『エノクは神とともに歩み、神が彼とともに歩み、彼が彼を取られたので、いなくなった』
・・・
猛暑続きのこの頃・・
召されて天に行くのも楽しみだけど、己の不摂生から時を縮めるのもなんですねぇ・・
水分、塩分、糖分、休養。
おさおさ怠りなきように。
太く短く、細く長く、
生き方色々だけど、
その人なりに十分生き抜いて
ハレルヤ!って、
駆け昇ってゆきたい。
そうだ!
飛べるように羽を鍛えなきゃ!!
ひよこの願い。
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