故国エルサレムで神殿が再建築され、
規則正しく礼拝が成されるようになったとの吉報は、
バビロンにいる同胞に、故国帰還の思いをさらに募らせました。
あっとゆうまに月日は流れたそんなある日、
バビロンにとどまっていた祭司、アロンの血を引くエズラの心に、
憂いの雲がかかりました。
彼はイスラエルの神、主がお授けになった律法に精通し、
日々、落ち度なく生活していました。
いつものとおり祈っていると、
神殿は完成したものの、
律法に沿った生活を送っているのだろうかと、
心が騒いだのでした。
それは、日毎に大きく膨らんで、
彼を突き動かさずにはおきませんでした。
ペルシャの王、アルタシャスタは寛大な王で、
エズラの憂いに共感し、
心置きなく行ってくるがよいと送り出してくれました。
それがアルタシャスタ王、在位7年目のことで、
神殿再建後、50年以上もたってからのことでした。
この時エズラは、黄門様の印籠よろしく、
アルタシャスタ王の手紙の写しを手にしていました。
そこには王の命により、
帰国したいと願うユダヤ人は誰でもそれを赦すこと。
私と、在バビロンの民からの餞別は、
エルサレムに着いたときの捧げものの代金とし、
残金は祈って有用に活用すること。
神殿で使用する器は、王の倉から出すことをゆるすこと。
ユーフラテス川から地中海にいたる全ての財務担当者は、
エズラに協力すること。
神殿で働く者は全員、免税にすること。
もしエズラの働きに従わない者がいたら、
厳罰に処すること。
これらは神の怒りが我らに望むことのないためである。
王は玉座に座して、
7人の王室の実力者を侍らせたうえで、
エズラに語ったものでした。
エズラは王の好意に感謝しつつも、
王を導かれておられる王の王を知っていましたから、
ただただ、偉大なる王、神様をほめた絶えずにはいられませんでした。
エズラ率いる一隊はアハワ川の辺に集結し、
それぞれの役割分担を確認しあいました。
名簿を作成し、持ち運ぶ金銀財宝の目録も作りました。
その結果1500名のユダヤ人と、
数十億円にもなる金、銀、器があることも分かりました。
しかし、レビの子孫で祭司となるべき人が一人もいないこともわかりました。
すぐさま、カシピアのユダヤ人指導者イドの元に人をつかわして、
必要な人数を集めてもらいました。
それから、エズラの元に集められた人たちと共に断食し、
旅の安全を祈願しました。
彼らの出立は、ユダヤ人だけでなく周りの民にも
小波のように広がっていましたから、
当然、山賊の類の標的となるはずでしたが、
そこはほらね、
イスラエルの神様が後押しをしておられるのが見え見えでしたから、
誰も手出しは出来ませんでしたよ。
さあ、エルサレム到着です。
到着4日目に贈与式が厳かに行なわれ、
感謝の礼拝が捧げられました。
はちきれんばかりの民の笑顔を見ていると、
エズラが抱えていた憂いは憂慮に過ぎなかったようです。
しかしその数分後、
彼は自分の憂いの正体を明かされて愕然としました。
両の手が思わず動いて、着ている衣を引き裂き、
大声を上げて頭を抱え込み、
驚きと、怒りと、悲しみのない交ぜになった感情をもてあまして、
自分の髪の毛と髭を引き抜きだしたのでした。
そばにいた者はその異様さに腰が引け、
仲間に知らせるべく部屋を走り出てゆきました。
鐘が鳴っています。夕の供え物の時です。
エズラの体がびくりと震え、
ゆるゆると操り人形のように立ち上がりました。
引きちぎられた衣はそのままで、
引き抜かれた髪の毛が絡み付いたままです。
「神様、お許しください。
我らの罪の故に、約束の地を追われましたが、
あなたのあわれみの故に、いまここエルサレムに帰還し、
神殿再建の恵みに浴しました。
ですのにまた、二の舞を踏んでしまいました。
帰還した民は、異教の娘を娶り、
あなたとの約束を破ったのです。
この上は、あなたのお怒りが我らに臨み、
我らを滅ぼしつくされるのでしょうか。」
エリヤの悲鳴にも似た祈りの声に、
引きずり出されるように、集まったは者たちは皆、
彼の周りで、涙を流して祈りだしました。
長い一日が終ろうとしています。
エズラは立ち上がったが、その夜も断食のまますごしました。
夜が明けた。
「エルサレムに散った帰還者を、三日のうちに集めなさい。
三日たってもエルサレムに来ていない者は、
財産を没収し、しかるべき罰を下す。」
エズラは立っていた。
目の前の広場には各地から集まった帰還者で溢れていた。
彼らはぬかずき涙し、その彼らを覆うように雲が垂れ込め、
大粒の雨がポツリポツリと乾いた地に黒いしみを残して消えた。
それもつかの間、後はバケツの水をこぼしたかのような雨が降り注ぎ、
民は寒さと恐ろしさに震えていた。
エズラは声を張り上げた。
聞こえませんて、雨音の方が大きすぎ!
それでもエズラは声を張り上げた。
「お前たちは罪を犯したのだ!
異邦の女を妻にした!
神に許しをこい、悔い改めよ!」
稲妻が走り回り、雷鳴がとどろく。
民は身をよじって地にひれ伏し、
ぬかるみの中にこぶしを打ち叩き、わが胸を叩いた。
それでも雨は止むことはなかった。
祭司エズラは代表者たちを選び、
異邦の女と結婚した者たちのリストを作らせると、
民の模範となるべき祭司も含まれていた。
代表者たちは離婚の手続きをすすめた。
辛い仕事だったが、手続きを粛々とこなした。
それでも3ヶ月も要した。