次の日、私が広場に行くと、
一人の若者が、人だかりの中から飛び出して来た。
「アモスさん、神様が罰せられるのはダマスコの他には、この4つではないですか?」
若者は少し興奮気味に声を張り上げた。
「選民イスラエルを苦しめる国は五つ。昨日はアラム(シリヤ)について話されたが、後はペリシテ 、フェニキヤ、エドム、アンモン、モアブだと思うのですが、どうですか?」
若い男は周りの者に目をやった。すると「そうだ、そうだ」と声が上がった。
アモスは人垣の中に、吸い込まれるように入って行った。
「やあ、その通りだ。ペリシテの罪は何か?奴隷売買だ。ペリシテの五大都市のひとつガザは、アラムとエジプトを結ぶ通商路がある重要な町だ。その便を利用して、エドムに選民イスラエルを奴隷として売ったのだ。すべてのペリシテ人は徹底的に滅ぼされるぞ!」
「選民を奴隷にするなんて、神様が許さないよ」ヒステリックに叫ぶ女の声が飛んだ。
「ツロはどうなるんだぁ」輪の外から誰かが叫んだ。
「フェニキヤのツロは、地中海貿易で栄えている町だ。われらの偉大な先祖、ダビデ王やソロモン王の時から「兄弟の契り」を結んだ町だ。悪名高いイゼベルがアハブ王に嫁することでさらに深まった。だが彼女も、彼女の連れてきたバアルの祭司や預言者も最悪だった。結局、イゼベルは殺された。それに怒ってフェニキヤが攻めてきた。負け戦だった。民は捕囚となってエドムに引き渡された。裁きは火によって滅ぼされると主は言われる」
「エドムはどうなんだ?」
「エドム(エサウ)は、アブラハムのいとこ。これこそ血を分けた身内だ。それなのに剣で兄弟を追いまわした。その裁きもまた火によって滅ぼされる」
わぁ~!と声が広がった。
「アモン人も罪を犯した。彼らの領土は荒れ地が多く、ギルアデの肥沃な地を絶えず狙っていた。エフー王の時、アラムの王ハザエルが攻めてきた。アモンはアラム側について、ギルアデを手に入れた。その時の残酷さのゆえに罪は免れない」
「確かに貧しい土地とはいえ、神様から与えられた我らの土地を奪おうなんて許されるはずがない」
「彼らの城壁は火で焼かれ、王も首長たちも捕囚として連れ去られると、主は言われる」
「モアブはどうなる?」
アモスは乾いたのどに唾を押し込んでから言った。
「モアブがエドムに攻めてきた時、イスラエルの王アハブとユダの王ヨシャパテがエドムに味方した。その報復として、エドムの王は殺された。そのうえ王の骨は灰にされた。罪人でさえ、その骨は拾われて葬られるのに、モアブは王様の骨を灰にしたのだ。これは許されない。指導者たちは殺され、火によって滅ぼされると主は言われる」
人々は神様の裁きの言葉を聞いて歓声を上げた。
集まった人たちは、選民であることを誇っていた。
「今日の話はここまでだ。しかし、神様から選ばれたイスラエルの皆さん。私はこの国のためにも、神様からお言葉をいただいている。それを明日お話ししよう」
「我らのために?神様からお言葉が?なんだろう?」
「この国の繁栄は神様からの祝福だ。もっと他にも祝福があると言うのかい?」
「明日が楽しみだ」
彼らは気をよくして帰って行った。彼らの後姿を目で追いながら、さて明日はどうしたものかと、私の気持ちは沈んだ。