ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

わが娘よ・・・

エフタは娘に声をかけた。
家に帰り、部屋に閉じこもってから三日目の朝だった。


父の異常な行動に、娘もまた三日の間、父の心をおもいはかった。
物心がついた頃には母はなく、
後添えをという回りの声を押しのけて、男手ひとつで育ててくれた。
その父の逞しい腕の中で不足を感じた事はなかった。
外では荒々しい男たちを統率し、
玄関で迎える自分を、節くれだった手で抱きしめるときには
溢れるような優しさに満ちていた。
それは何ものにも揺り動かされる事のない彼女の城壁だった。


あの待ち焦がれた輝かしい勝利の凱旋に
彼女は晴れ着を用意し、祭りの時しかつけた事のない紅をひいた。
窓から入る光の中で、ふつふつと沸きあがってくる喜びと誇り。
それが、濃い睫毛の下でキラキラ光る眼差しにとけこみ
滑らかな頬にはうぶげが光っていた。

母のない彼女にとって、わが身の内から徐々に押し寄せる春の息吹に
ときに戸惑いを覚えるこの頃だった。
そんな彼女の成長を見つめる父の目も微妙に揺らいで
そそくさと意味もなく外へ出かける時があった。


あの日、誰よりも早く父に会いたかった。
その胸に飛び込んで、その顎鬚の中に埋もれたかった。
むせかえるような父の汗と埃の中で自分も染まりたかった。

なのに、それは出来なかった。
そして今、頭の中をくるくると回って離れないのは
自分の前にうずくまり衣を引き裂く父の姿だった。
回りの景色も歓声も霞みの彼方に消えて
ただ父の声だけが残っている。
その姿とともに・・


ああ、一体何があったのだろう・・
あのように取り乱した父の姿が哀れだった。


一体何が・・


驚愕した父の目
その目の中に
自分の笑顔も、父の笑顔も、魂も吸い込まれ
何か特別なことが起ころうとしている。


何だろう・・


彼女は少し首を傾けながら、膝の上に置いた手の
その先をぼんやりと眺めた。
つややかに光る指の先は、恥らうように優しい色をしていた。
と、父の気配を感じて
彼女はびくりと背を伸ばし、慌ただしく席をたった。



気付くと彼女は父の膝に伏していた。
切れ切れの父の言葉からその意味を察して
彼女の幼い胸はつぶれそうだった。

そうだったのか・・
それで・・・
あんなにも苦しんで・・


彼女には包みきれない父の手の上に
さっき眺めた自分の手をかさねて、
父を見上げた。




・・・

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