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ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

王妃イゼベルの策略


イゼベルは満足そうに鏡の中の自分に見入っていた。
年月を重ねたけど、
それなりに落ち着きのある美しさが身についていると思った。
体形は輿入れした当時と然して変わらず、
目の輝きも衰えていない。
髪飾りが、綺麗にまとめ上げられた髪につけられた。

彼女は満足そうに口角を上げると、
侍女たちはため息をついた。

   「イゼべル様、その笑顔はどんな宝石よりも美しいですわ」
彼女たちは輿入れのおりに、
国元から連れてきた気心の知れた女たちだった。

イゼベルは右端の口角をさらに引き上げて、にこやかに立ち上がった。
そろそろ、夫が帰ってきてもいいころだ。
鏡の中の彼女はくるりと廻って、最後の確認をした。
完璧だ。

政略結婚とはいえ、
日々の暮らしを彼女は満喫していた。
わがままはすべて受け入れられ、
国元にいるときと代わらない生活が、何とか出来たからだ。
彼女は自分の信仰をこの国でも根付かせようときめていたから、
沢山の祭司を引き連れてきた。
夫、アハブは何も言わなかった。

彼女は、それらの祭司のために、神殿と居住空間を求めた。
夫は二つ返事で受け入れてくれた。
そうして、彼女と共に礼拝することを拒まなかった。
そればかりか、積極的に援助してくれたのだった。

初めてあったとき、
アハブの目の中に、驚愕と戸惑いと、歓色が入り混じるのを見て、
貧しい小国への輿入れを渋っていた彼女でしたが、
この笑みで、さらに彼を有頂天にさせたのだった。

彼女は時々、アハブの王としての権力の弱さにうんざりした。
民のご機嫌なぞ、とる必要はないのだ。
それに、預言者と呼ばれている無骨な男たちも気にくわなかった。
なぜなら、王に対して、
いつも礼を尽くして謁見するのに
語る言葉は高飛車だった。

そしてたいがい夫は、その言葉にまいってしまって、
熱を出して寝込んだり、
無口になって彼女を無視した。

彼女も黙って見ているわけにも行かず、
預言者たちを追い詰めるのだが、
誰にもわからない抜け道を知っていて
いつも完全にはいかない。

今回だって、
一介の農夫の言い分なぞ取り合わなくてもよかったのだ。

ベットに丸まっている夫を見て、
彼女はがっかりした。が、
それはいつものことで、
彼女は直ぐにアイデアが閃いた。

イゼベルは、王印を押した手紙を、町の長老に送った。

内容はこうだった。

  町の者に断食と祈りを命じること。
  『ナボテは神と王とを呪った』と、
  二人のならず者に偽の証言をさせること。

イゼベルの目論みは直ちに働いて、ナボテ哀れ。
彼は偽証によって石打の刑に処せられた。

   さあ、お顔をおあげください。
   あなたに口答えするナボテは死にました。
   彼の土地を手に入れて、
   あなたの望みをかなえてください。

妻の言葉につられるように起き上がったアハブは
髭をそり食事をとって、ナボテの畑へと向かった。

   またお前か。

王の前に立ちふさがったのはエリヤだった。

   私の気持ちを損ねるやつよ。
   今度はなんだ。

   王よ、善良な民を偽証によって、
   死に追い込んだ罪は重い。
   ナボテの血の報いを受けるのだ。

   主の言葉だ。

   お前の命も彼のようになる。
   お前にかかわりのある男子は、
   一人残らず滅ばされ、
   オムリ王朝も崩壊だ。

   お前に悪を吹きこみ、
   イスラエルを偶像で満たしたイゼベルも
   また非業の死が待っている。



アハブはいつにも増して強い語気の、エリヤの言葉に驚いて、
ビリビリと衣を裂いた。
そうして、悲鳴とも叫びともつかない声を張り上げながら
王宮に引き返すと、
今度は祈りの部屋に閉じこもった。

そんなふうだったから、
入念に着飾ったイゼベルの姿は
王の目にはとまらなかった。

そこは磨きぬかれた象牙の部屋で、
精巧な彫刻が施されていた。
彼は引きちぎれた王服を脱ぎ捨て
粗末な服に着替え、
荒布を頭からかぶってひれ伏した。
声は枯れ、食事は喉を通らなかった。

イゼベルは怒った。
いつにもまして着飾った自分に
一瞥もせずに通り過ぎた夫にだ。

皮肉にもこの時、
服は破れ、蒼白な王の姿は、
彼女の目には留まらなかった。

まして、彼女に下されたエリヤの言葉など届くはずもなかった。

怒りと恐れがせめぎあって、
恐れがそれに優って、
アハブは、神様の哀れみを求めてひざまずいていた。

エリヤは嫌いだったが、
預言者として取り次ぐ彼の言葉は
諸刃の剣のように鋭く、
いつも核心を突いて迫ってくる。
彼は本物の預言者なのだ。と、認めている。

だからこそ、彼の言葉には逆らうことなど出来なくて、
そのたびにごとに、真っ黒な高い塀が自分を取り巻き、
今にも崩れ落ちてくるような恐怖に襲われるのだった。

己の犯した罪の中をさ迷って、
その罪深さに押しつぶされて、ぶっ倒れてしまうのだ。

根は正直な男なのだ。きっと。

神様もそんな彼を哀れと思し召して、
エリヤに言った。

   あんなに悔いているんだもの、
   その心に免じて減刑してやろう。
   いや、減刑は出来ないが、延期してやろう。

アハブの命は少し長くなり、
お家断絶の悲惨な場面にも出くわさなくてもすむ事になりました。
でも、ただ先送りされただけなんですけどね。