妻の視線を感じたモーセは
「さあて、明日も忙しくなるぞ」
と大きな伸びをした。
日ごろ彼女には言い知れない苦労をかけて来た。
だからと言って、あえて口にはしなかった。
自分の気持ちは分っているはずだ、とも思っていた。
仕事に追われて
家のことはすべて彼女にまかせっきりで
夫らしいことは何もしていない。
彼女も特別何も言わない。
時々今夜のような不安な眼差しを感じることはあるものの
いつもそっと寄り添っていてくれる。
彼女はどう思っているのだろうか?
一度ゆっくりと話さなければ・・・・・
深々と枕の中に沈んでゆく頭の隅で、彼は思った・・・
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そう、そう、いい忘れたけど、70人の長老たちを選べと神様がおっしゃった時
「明日、お前達は肉を食べるのだ!!」
ともおっしゃたのね。
モーセは民にそのことも伝え、身を清めて、朝を待て伝えてあったの。
きっとみんな、今夜は夜明けを待ちわびながら寝床に就いたはず。
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昨夜の風は少しおさまり、
気持ちの良い朝を迎えた。
いつもの時間にテントを出ると、真っ青に晴れ渡った空が眩しかった。
道を歩いていると、両手に一杯鶉を抱えた人がかけて来てモーセに言った。
「野営地の周りは鶉で埋め尽くされています。」
そんな騒ぎに引き出されるように、野営地のはずれに行くと、うずらが、ばたばたと飛び込んできた。
彼は息を呑んだ。
辺りには羽毛が舞い飛び、うっかりすると口や鼻や眼を塞いだ。うずらが垣根のように積み重なり、下の鳥は圧死していたし、上の方は弱りきったうずらが、バタバタと仲間の上に転げまわっていた。
むっとするような熱気と臭いがモーセを包んだ。
そのうえさらに、雨のようにうずらが飛び込んでくるのだ。
そうして何人かの長老達に出会ったので、色々とさしずをしてから、会見の幕屋に向った。野営地に向う人や帰って来る人の波にもまれて、たどり着いたのは太陽が高く頭上に昇った頃だった。
幕屋からは祭司たちの奉げる煙が、何事もないかのように、ゆるゆるとのぼっていた。
情報によると、野営地の端の何処から行っても、一日路、うずらで埋め尽くされ、それも一メートルもの高さに積み重なっていると言うのだ。
(そんなことってあるの???????)
もちろん、人々はうずらの始末に追われました。それは手元が暗くなるまで続けられ、次の日も、その次の日も、白んだ空の下で黙々と続けられた。
そして、朝も昼も夜も腹いっぱいその肉を食べ続けた。ついには鳥の腐敗臭がただよいだし、民の中には気持ちの悪くなるものが出始めた。
モーセは先日の神様との対話を思い出していた。
『望みどうり肉を与えよう。
一日と言わず、二日と言わず
一ヶ月は食べ続けるがよい!!
その鼻から血が出てくるまでだ!!』
おおっ!!
神さまぁ〜!
ちょっと、やけくそっぽくないですかぁ・・
「え、ええ!!」
モーセもびっくり・・・
「我々の家畜を全部殺しても60万人以上の
この民を食べさせることなど出来ません』
そういえば鳥取県の人口が60万を切ったとか・・
色々と大変でしょうね。
神様は岩をも砕くような声で言われました。
『わたしの手は短かろうか?あなたは、いま、わたしの言葉の成るかどうかをみるであろう』
モーセは気持ちの悪い汗をかいていた。
それはこれから起ころうとする、なんだかわからないが、
不気味な胸騒ぎのせいだった。
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