オンは何処に行ったのぉ・・・
あんな騒ぎの中、オンの名前が出てこないのよね。
彼はきっと民衆の中に紛れ込んだのね。
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オンは不満だった。
なくなってしまった同志たちのことで・・・
彼は助かった命を、亡くなった同志のために捧げようと決めた。
一睡もすることなく、夜が明けると、人々の集まりそうなところに出かけて行っては、つい先ごろ起こった同志の、悲惨な様子を話し、モーセとアロンの非をあげつらった。
多くの人々がそんなオンの言葉にうなずいたのは、モーセとアロンに対する不信の根の深さを感じますね。
彼らはまたモーセとアロンの前に集まってきて、
「なんで、同じ選民の民を殺したのか・
なんで、指導者の権を独り占めにするのか、
なんで、
なんで・・・」 と詰め寄った。
そんな時一人の若者が走ってきて、モーセに告げました。
神様の雲が天幕に降りてきているというのです。
モーセとアロンは振り返った。
天と地とを繋ぐように雲は細く渦を巻くようにして、会見の幕屋の上にありました。
二人は大急ぎで会見の幕屋に急いだ。
彼らが着くと主は言われた。
「わたしは彼らを滅ぼそう。」
二人はすぐに執り成しの祈りを捧げた。
そうしてしばらく静まっていた時、モーセは、はっと頭をもたげた。
そして、目に前の、雲の向こうを確かめるように凝視した。
「あっ!!」
モーセは急いでアロンの所に来ると言った。
「アロン!!
火皿を!!
祭壇の火をとって、香を焚き染めるのだ。
いそげ、すでに神様の裁きは始まっているぞ。
つぶやく民の中にいって、その頭に香を振り掛けるのだ。
罪の許しを願うのだ!!」
アロンはその声にガバッと立ち上がり、モーセの声を後ろにした。
火皿に祭壇の火を取り、薫香を乗せた。
あせって、手が震えたが、芳しい香りが鼻をなでると、気が落ち着いた。
アロンはそれを取ると、つぶやく民の中に駆け込んだ。
見ればそこここに、人が倒れていた。
すでに激しい勢いで伝染病が広がっていた。
アロンの火皿に気がついた人々は、その煙で清められようと手を伸ばした。
アロンは、火皿を振りかざし、必死になって許しを願った。
それで、やっと伝染病はおさまった。
しかし、その日倒れた人の数は14.700人にものぼった。
帰りのアロンの足は重かった。
報告を聞いたモーセの気も重かった。
二人とも、自分から進んで指導者になったわけでもなく、祭司になったわけでもなかったのだ。
だから余計に辛かった。
自分からだったら、役から降りることは出来た。
しかし、一方的な神様からの選びだったのだ。
退くことは出来なかった。
神様は言われた。
12の族長たちに、
それぞれ自分の名前を刻んだ杖を持ってこさせなさい。
アロンの名はレビ部族の杖に彫りなさい。
そうして12本の杖を契約の箱の前に置きなさい。
私が選んだ者の杖からは芽が出るだろう。
民がそれを見れば、彼らの不満もなくなるだろう。
モーセは神様からのお言葉を伝え、12部族の族長はそれぞれの杖を持ってきた。
アロンの杖もその中にあった。
***
オンはまだ生きていた。
累々と続く屍の中で、彼は目を閉じていた。
ハエが目じりや鼻の近くにへばりついていたが、気にならなかった。
ただ彼の心の中には、気になることがへばりついて死ねなかった。
私のしたことは間違っていたのだろうか?
仲間の死を無駄にしただけでなく、こうして自分の周りに転がっている人たちをも巻き込んでしまった。
何処が間違っていたのだろう・・
オンはそれが知りたかった。
しかし今、彼に目をとめる者は誰もいなかった。
陽射しが急に強まって、彼の意識は白く空しくなっていった。
オンの目じりに止まっていたハエが驚いたように飛び立った。
キラリと涙の雫が光って流れた。
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聖書朗読は、ひよこの自己流解釈で読み進んでいます。
時に、聖書には出てこない出来事もあります。
今日のオンのように・・・
あれ??と思われたら、聖書を読んでくださいね。
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