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ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

ダビデ、アブサロムを迎える

サムエル記

    
   「あれから二年か・・」

アブサロムは一人そうつぶやくとキリリッと目じりを上げた。
二年間待ってみたが父ダビデは何も言ってこなかったし、
アムノンを罰しもしなかった。
タマルはいまひっそりとアブサロムの用意した隠れ家で生活していた。

   快活で笑顔の綺麗な妹だった。
   彼女の美貌は若者たちの羨望の的だった。
   兄である彼にしても、
   タマルは自慢の妹で、
   よくあちらこちらと連れ歩いたものだった。
それが・・
    かわいそうな妹。見ていろよ。
    必ずお前の仇をとってやる。

アブサロムは、二年前のあの日からじっと、今日とゆう日を待っていた。

空は晴れ渡り、心地よい風が吹いている。
羊たちの毛を刈るのにはすこぶる良い日が続いた。
この収穫の祝いの席に父ダビデをはじめ、自分の兄弟たちを招待した。
するとダビデは言った。
     
     いや、みんなが押しかけては
     お前の負担が大きくなると辞退した。

アブサロムが強いて勧めたが父は応じなかった。
それで彼は言った。

     それではお父さん、
     どうか兄弟だけでも祝いの席に招待させてください。
     今年はいつになく沢山の羊の毛を刈り取ることが出来ましたから。

アブサロムの熱心さに折れて、彼の希望が受け入れられた。
ダビデは二年前のタマルの事件を忘れてはいなかった。
長男アムノンは腹違いの妹をだまして
力ずくで自分のものにしたあげく、
事が終わるとすぐ、彼女を忌み嫌って
犬っころのように追い払ったのだ。

あの時ダビデは激怒したが、アムノンを責めなかった。
バテシバとのことで色々と騒がれていたときでもあり
彼は父親としての権威を失墜していたのだ。

     世間では兄がタマルの仇を討つだろうとの噂もあったが、
     あれから二年、
     アブサロムはいつも穏やかだった。
     そうだ、あれから二年もたっているのだ。
     彼の気持ちも治まっているだろう。
     17人もの兄弟が集まっている中で事を起こすはずもないか・・
     ダビデは不吉な自分の思いを自嘲しながら打ち消した。

昼を少し過ぎた頃だった。
慌しい足音とともにそれはやってきた。

    「アブサロム王子様が
     ご兄弟を皆殺しになさいました!」

ダビデはびっくりして立ち上がり、服を裂き、
地にひれ伏すように倒れこんだ。
周りの者も慌てふためき、恐れ悲しんで服を裂いた。

そこにアムノンに悪知恵を吹き込んだ
ダビデの兄シメアの子ヨナダブが駆け寄ってきて言った。

    「殺されたのは、お一人だけでしょう。
     早合点はなりません」

ヨナダブはアムノンとタマルの一部始終を見ていた。
それはアムノンの一方的な片思いだった。
その切ない思いを何とかしてあげようと
アムノンに悪知恵を授けたのだ。

    仮病で寝ていなさい。お父上が見舞いに訪れたら、
    タマルを呼んでくれるようにと頼むのです。
    まさか事が終わってすぐ、
    アムノンがタマルを憎むなどとは考えもしなかった。
    アムノンは抑えがたい若さの欲望をただ満たしたかったのだ。

タマルの兄が仇をとると耳にしたときから、彼は密かにアムノンの身を案じ
そっと見守っていたのでしたが、今日に限って傍にいてやれなかったのだ。

彼は心の中でそれを悔やみつつ、
ダビデにアムノン以外の子供たちは無事でしょうと話していると、
王宮の見張り番の声が頭上から降ってきた。

    「山沿いの道を人が走ってきます。
     あ!王子様方です!」

王宮の中に小さな歓喜が湧き上がった。
一行はすぐに到着し、慌しく王の前に姿を見せた。
そうして父の顔を見るとほっとして声を上げて泣いた。
家臣も泣いた。
王も泣いた。
ダビデ家の家族争い。兄弟殺し。
ダビデの脳裏に預言者ナタンの言葉ががんがんと響き渡った。

   「あなたの家から剣はいつまでも離れない!」

アブサロムは計画どうり母の実家に逃れた。

それからまた三年が過ぎた
長男を三男の手によって失ったダビデは
周りの者が慰めようもないほどに落ち込んだが
時の流れの中で区切りをつけて行った。
そうして、アブサロムに会いたいと思うまでになった。

忠実な家臣は主人の心が読めるのでしょうか。
ヨアブ将軍はそれが出来たみたい。
それで彼は人に頼んで一芝居を打ってもらった。
ところがダビデはそれを見抜いて言った。

   「お前にこんな事をさせたのはヨアブだな」
   「はい、その通りでございます。
    ヨアブ様は王様と王子様の事を気にかけておられて
    何とか事態を良くしたいと私に指示なさいました」

ダビデはヨアブの心根に打たれ、
彼に息子アブサロムを連れ帰るようにと頼んだが、
帰ってきた息子との対面は拒んだ。
それで、アブサロムは自分の家に帰った。

それからまた二年の歳月が流れた。
依然としてアブサロムは自分の家にいた。
そうして思うことは自分の置かれている立場だった。
長男亡き後、次男のキルアブが父の後を継ぐことになるのだが
どう見てもその器には見えなかった。
アブサロムは焦っていた。
父ダビデからは何の音沙汰もないまま
自分は忘れ去られてしまうのか。

アブサロムはヨアブに何度か使者を送った。
しかしヨアブは現れなかった。
彼は思い詰めてよし!っと膝を叩いた。
彼は笑った。
隣の大麦畑はヨアブの土地ではなかったか。

    「火を放て!」

アブサロムは家来に言った。
その燃える大麦畑を見つめていると、ヨアブが顔を真っ赤にしてかけて来た。

    
   「あなたの家来が私の畑に火を放っているのを
    黙って見ておられるのですか!」

アブサロムは笑顔を引っ込めて言った。

    「あなたを何度も呼んだのに来てくれなかった。
     父の元に行ってくれ。
     『何のために私はエルサレムに連れ戻されたのですか?
      私は父に会いたいのだ。
      私の罪を許されないのなら、死刑になってもかまいません。
      私は殺される事を恐れてはいない』

それでヨアブはダビデのもとを訪れて、アブサロムの願いを告げた。
ついにダビデはアブサロムを宮殿に呼び寄せた。
ひれ伏す息子アブサロムを見てダビデは駆け寄り
その肩をしっかりと抱きしめた。
ダビデの流す涙がアブサロムの手に落ちて
それから床に黒いシミを広げていった。

アブサロムはそれをじっと見つめていた。
彼には計画があった。
父と再会を果たした今、公にエルサレムの町を歩けるのだ。
王の子として。

彼の口角が不自然にゆがんだ。
ヨアブはそれを見逃さなかった。