サマリヤの町の門は堅く閉ざされて、
不気味な沈黙があった。
おい、どうする。
何をためらっているんだよぉ、、、
お前が言いだしっぺだろ。
ああ・・・
おおいぃぃぃぃ〜〜!!
おおいぃぃぃぃ〜〜!!
いつの間にか四人は、サマリヤの門に向かって叫んでいた。
小さかった明かりが、ちらちらと広がって、
彼らに注がれた。
いよいよ、敵が攻めてくるのか!
門内で一瞬緊張が走った。
が、それも静まって、
それからしばらくして、
ゆるゆると、見張り戸の小窓が開いた。
誰だ!!
こんな夜中に、声をかけるとは!
敵ではありません。
われらは以前、この町の中にいた者ですが、
病にかかり、門外で暮らす者です。
見てください!
われらは持ちきれないほどの食料も持ってきました。
お!!
それは!?
「食料」の声を聞くと、門の上からいくつかの顔が覗いた。
スリヤ陣営から掠めたものです。
あそこには、もはや一人の兵士もいません。
彼らはどうゆうわけか、すべてを置いていなくなりました。
食べ物があふれています。
それを知らせるためにやってきました。
小窓から人影が消え、
次に顔を覗かせた兵士が言った。
おい!これは本当なのか?
今、王様に知らせが走った。
本当だったらありがたい。だがな、
これが偽りだったら、命は無いぞ!!
ガタリと大きな音と共に小窓が閉じられた。
どうした!
まだ夜明けまでには時間がある。
敵が攻めてきたか!!
王は寝起きの目をまぶしそうに明かりに向けながら、ガウンの袖に腕を通した。
それが、門外に住む者からの知らせですが、
スリヤ兵が荷物を置いたまま居なくなったというのです。
彼らによれば、テントには食料が残っているそうです。
テントを残したまま・・・・兵が居ないとな?
すぐにも食料を手に入れたいところだが・・
話が出来すぎている。
われらがこの堅固な門を開けるのを、
闇の中からうかがっているのだ。
罠だ!乗るな!
急の知らせに、側近たちが集まって来た。王様の言葉に、ああだこうだと話していると、彼らの後ろに居た若い家来が言った。
王様、王様もご存知のように、
すでにこの町の食料は尽きています。
このままでは、我らの明日はありません。
信憑性のあるものか調べる価値はあります。ここに居ても、外に出ても、命の保障がないとしたら、思い切って動いてみましょう。偵察に行かせてください。
うう・・・む。
よし、わかった!!
まだ馬が残っていたはずだ。
つれて行け!
こうして、5頭の馬が選ばれ、
偵察のための兵二人が、
夜明け前の暗がりへと出て行った。
彼らは人影の途絶えたスリヤ陣営を通り過ぎ、ヨルダン川へと続く道を、せわしなくあたりに気を配りながらたどった。
不思議な光景だった。
人っ子一人見当たらない道のあちこちに、
敵兵の脱ぎ捨てた物や、何やらが無造作に散らかっていて、
それは、ヨルダン川の岸辺まで続いていた。
川が、それをさえぎって横たわっていた。
二人はしばらく川のほとりを歩き回り、
それから踵を返すと、馬を走らせた。
途中、スリヤ兵が残したテントの中から
持てるだけの食料を調達して馬に乗せると、
5頭の馬の列は、足取りも軽く、
白み始めた景色の中を、サマリヤの門を目指して帰って行った。
その後姿をそっと見守ったのは、
あの四つの人影だった。
彼らは、顔を見合わせて笑った。
太陽が今日も顔を覗かせて、
彼らの笑顔を朱に染めた。
エリシャが、朝の勤めを終えて庭に出ると、
王のもとから使者がやって来ていて、
興奮しながら事の次第を伝えると、せわしなく帰って行った。
エリシャは大きく伸びをして、
朝の空気を吸い込んだ。
今、サマリヤの門では
小麦粉12リットルと大麦24リットルが、
それぞれ300円で売られているのだ。
王の使者は、もうサマリヤの門へ出かけたのだろうか。エリシャはふと、昨日の使者の行く末を思って、首を垂れた。*1
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*1:*これは前回のお話の続きですが、時間的にちょっと前後している部分があります。