ピヨピヨひよこ日記

自分流に聖書を読んでいます。

聖書を自分流で読んでいます。

人垣に囲まれて・・

私はべテルの街中を人垣をかき分けながら、興味深げに歩いた。テコアの牧歌的な所から出てきた私にとって、目まぐるしいく騒がしい町だった。絶えず荷車が行きかい、旅人が右往左往していた。在住の人々は気軽な服装で闊歩して、姦しかった。そのわきでは、地面に座り込んで、垢にまみれた手を差し出して、憐みを乞う人の姿が目に付いた。べテルの町はその日、聖なる「祭りの日」だった

 べテル神殿へ続く参道は人で溢れかえっていた。供え物を調達する人々が、羊やハトなどが並ぶテントの前に群れていた。

 私は、腹ごしらえをすますと、べテルの門に続く町の広場に向かった。人の出入りが一段と激しくなった。片隅では、幾人かの老人たちが、地面に何か書いたり消したりして、ゲームに興じていた。

 私はしばらく広場の雰囲気を見てから、杖でとんとんと地面を軽くたたいた。すれ違う人の群れが一瞬振り返って、怪訝な顔を私に向けたのをみて、思わずコホンと咳が出てしまった。いったい、どう切り出したらよいものやら、この期に及んでも、まだ分からなかった。

 私は両手で羊飼いの杖に取りすがった。早く何か言わなければと焦ると、膝頭が震えるのだ。それを抑えつけようと、足の指先を開いて踏ん張った。腹に力を込めた。目を閉じた。唇がかすかにふるえて、祈りの言葉が溢れた。

『神様、私のこの唇をお用いください。今この場所を祝福してください』

 握りしめる手に力を込めると、じっとりと、手のひらが汗ばんできた。すると、頭の中がすっと整って、私は目を開けた。

「わぁっ!」

驚いた人の輪が、一歩、広がったのが見て取れた。

 

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 羊飼いの杖を手にして広場に立つ男の、薄汚い姿が異様だったのか。ぶつぶつとつぶやく声に、耳をそばだてていたのか。怖いもの見たさに突き動かされ、一人二人と立ち止まり、後は意味も分からず、好奇心に駆られて吸い寄せられたのか。とにかく、私は人の輪の中に立っていたのだった。

イスラエルの皆さん聞いてくれ。私はユダのテコアで羊を飼っていた者だ。ある日、神様が幻の中で私に語られた。イスラエルに行って語るのだと。今までこの国を苦しめてきた、周辺諸国への裁きについてだ」

周りがざわついた。

「わざわざユダからやって来るなんて、物好きだな」

「本当に神様がおっしゃったのかい?」

周辺諸国には、ずいぶん痛い目にあってきたんだ。神様はなんとおっしゃったんだ」

「おいおい、こんな薄汚れた羊飼いの言葉を聞こうってのかい、ずいぶん暇だなぁ」

「ははあ~ん。そういうお前もこの輪っかに加わってるよなぁ」

「羊飼いの預言者?まあしかし、時間はたっぷりある。聞こうじゃあないか」

 私を取り囲んだ人たちは、それぞれ勝手なことを言い合っていた。しかし、緊張している私は、周りのことがよくわからなかったのが、正直なところだった。

 不安な心のまま目を上げると、真っ白なハトがスーッと私に向かって来て、ささやいた。

「恐れるな。語るべき言葉はすでに授けてある」

そのハトは、私にしか見えなかったようだった。

「皆さん、ダマスコは罰せられる。神様が与えられたギルアデは、豊かな放牧地でマナセ半部族とガド族が平和に暮らしていた。そこに、シリヤのハザエル王が攻め込んできた。彼は、預言者エリシャが涙を流しながら油を注いだ王だ」

私は取り巻く人々を見回しながら、大きく息をした。

「ハザエルは、油注がれると狂暴化して、自分の王を殺し、ギルアデの要塞に火を放ち、若い男たちを殺し、幼子を八裂にし、妊婦たちの腹を切り裂いた」

「わしは知っとるぞ」

しわがれた声が人垣の向こうから聞こえてきた。

「ああ、親から聞いたことがある」

若い男の声が重なった。

それほどギルアデの惨劇は痛ましく、また、まだそんなに古い出来事ではなかったから、会衆の中からも幾つか声が上がった。

 「皆さん、アッシリヤはシリヤを攻めて、ベッカー渓谷に住むその住民を、遠くチグリスユーフラテス川とペルシャ湾の近くのキルへと捕え移される」

「おお!」

「アッシリヤといえば、預言者ヨナが、神様から遣わされた所は、アッシリヤのニネべだ」

「アッシリヤは敵国だ。勢いに乗って攻め下ってこないか?」

「まてまて、恐れるな!わしらは神様から選ばれた選民だ」

「そうだ!そうだ!」

「神様がそんなことを許されるはずがない」

私はそんな人々を手で制して言った。

「皆さん、明日はペリシテの裁きについて、お伝えしましょう」

 不安と期待とがないまぜになった会衆が二人、三人と小さな輪をいくつか作って話し込んでいたが、それも、三々五々散っていった。

 私の中から緊張がすっと消え、疲労がじわじわと押し寄せてきた。ホセアの家に行こうか、と一瞬思ったが、私は祈りのための場所を探すことにした。

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 「そのころ、神様はイスラエルの領土を少しずつ削り取っておられました。ハザエル王が、ガドとルベンの部族のものである、ヨルダン川東岸に広がる、ギルアデの全地域、さらに、アルノン渓谷にあるアロエルからギルアデとバシャンに及ぶ、マナセ部族の諸地域をも手中に収めたのです。」(列王記Ⅱ10:32~)

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