ははは!もはや、三日と持つまいよ!
サマリヤの現状を知っているスリヤ陣営では、町の門、突破の話題一色だ。
それにしても、しぶといではないか?
預言者エリシャが何かをすると、期待しているからな。
自分の子供が居なくなってもかい?
ははは!
それでも、神様頼みとはなぁ、片腹痛いよ!
ふっ!
お前は食べすぎだ!
はははぁ!!
まだ酒も沢山あるぞ!飲め!
スリヤの陣営は昼間からこんな状態で、楽勝確信のためか、規律も乱れていた。
そんな時、突然、グラリと地面が揺れた!
陣営を取り巻くように、土煙が上がった!
わぁぁぁぁ〜!!何だ!何だ!
馬だ!戦車だ!
大群が押し寄せてくるぞ!
彼らは、ヘテ人やエジプトの援助を待っていたのか?!
まだ日没までには間があるというのに、不気味な闇が、彼らの周りだけに迫っていた。
逃げろ!命あってのものだねだ!
地鳴りのような音は益々大きくなり、腹の底を揺さぶった。それから、スリヤ陣営が静かになるのに、さして時間はかからなかった。
やっと、太陽が山肌をなめるように沈み始めた頃、出来たばかりの闇の中で、うごめく4人の影があった。
ぼろきれに包まれた彼らは、痩せこけていていた。落ち窪んだ目の奥には、それでも、生きるための策を、あれこれ試みようとする必死さがあった。
おい!どうする!これ以上ここにじっとしていたら、死を待つばかりだぞ。
死を待つだってかい?
俺たちはすでに死んだも同然。
こんな体になってしまったんだ。
家族からも見放され、
町の中へもおいそれとは入れない。
彼は白く粉を吹く手の甲を眺めた。
重篤な皮膚病だった。
神から見放された者のなる病気だ。
人々に忌み嫌われていた。
おい!どうする!
彼は再び同じことを繰り返した。このところ食物らしきものを口にしていなかった。かろうじて芽を出した、草の芽や、小さな虫を捕まえたりしていた。
思い切って町中に入った所で、中の様子は知れている。
こちら側よりひどそうだ。いっそのこと、スリヤ陣営に逃げ込むか?
え!
敵の中にかい?
そうよ。白旗を揚げて行くのさ。
殺されるぞ!!
フッ! 殺されるって?!今だって、死人のようなものだし、たぶん死ぬな。
おいおいそれでいいのか?
ここは一か八かやってみるしかないな。
死んでもともとだ!
スリヤの陣営には食べ物があるぞ!!においだけでも嗅がせてもらって、死んだってここよりはましだ。
それもそうだ。
四人はよろよろと歩き出した。
おい、まて!
この丘の向こうに彼らは陣をかまえていたな。明かりがない!人の気配がしないぞ!!
月明かりにうっすらと、テントが見えて、打ち立ててある旗が、ばたばたと風にあおられていた。が、人影は見えなかった。
今日の昼には炊飯の煙が上がっていた。俺はちゃんと見たぞ!!
彼らは恐る恐る近寄った。
馬が居る、ロバもいる。
だが、人の気配は皆無だった。
テントの中をおずおず覗く。
鼻先を襲ったのは、
酒のにおいやら、肉のにおいだった。
腹の虫が歓声を上げ、唾液が口中を満たした。
四人の喉が一斉にゴクリと鳴った。
闇の中に、彼らの手が勝手に動いた。
手当たりしだい、食べ物を口に運びこんだ。
う!! ぐぐぐ!!
一人が物を喉に詰まらせてうなった。
そしてやっと、四人の手が止まった。
空っぽの胃袋に突然、肉の塊が飛び込んできて、四人の胃はきりきりと踊っていたが、気にならなかった。
闇の中で火種を探し、大胆にも明かりをつけた。
口の周りを汚しながら、もぐもぐと口を動かす仲間を見て、彼らは互いに相手を指差しながら、腹を抱えて笑った。
一息つけたのだ。
食欲が満たされた。
すると、物欲が激しく彼らをせかした。
彼らは欲の赴くままにテントの中を物色し、いつも寝泊りしていた近くの洞穴に、金目の物を運んで隠した。
そんなことを繰り返していた時、一人の男が正気に戻って言った。
おい、神様はわしらをお見捨てにはならなかった。そうだよな!
彼は仲間の顔を覗きこんだ。
仲間がこくりとうなづいた。
神様は私らをお見捨てにならなかった。
主をほめよ!
主をほめよ!
それで、このままでいいのか?
このままって?
わしらだけが祝福に預かっていることさ。
町のみんなは死にかけているんだぞ!
こんなことを夜明けまで黙っていたら、
神様はお怒りになられる!
そうだった。行こう!
四人は一斉に、町の門を目指して走り出していた。
エリシャは満足そうに微笑んで、ベットに潜り込んだ。
*1:突然生えてきたきのこ。名前は?すぐに枯れましたが・