「あなたは死にます。遺言をお書きになることをお勧めします」
体中に大きな吹き出物が出来、そこが膿んで、高熱にうなされている人に、面と向かって宣言できる人は、この人しかいません。
イザヤです。
それを聞いて、「イヤジャー!!」と、壁に頭を叩きつけるようにして泣き叫んで祈ったのは、王ヒゼキ王。
死後の世界?不確かな恐れ!
だからといって、別に未練たらしく泣き叫んだわけではありません。
王様は今、宗教改革の真っ最中、ここで死ぬわけにはいかなかったし、迫り来るアッスリヤの脅威を残したまま、命尽きるわけにはいかなかったのです。
え! アッスリヤは捨て台詞を残して引き上げたのでは?
ということは、この記事、その前の出来事なんだね。
預言者イザヤは、悲痛な叫び声を上げる王を横目に見ながら、こみ上げてくる私情をぐっと抑えて、王室を後にしました。
照り返しのはげしい日差しを、避けるようにして中庭を歩いていると、突然、彼の足は止まりました。
かすかな声を耳にしたからで、イザヤはしばらくじっと、雲ひとつ無い空の彼方に、心の耳をそばだてていました。
そして、くるりと踵を返すと、すたすたと王の部屋へと戻って行きました。
イザヤは神様の声を聞き、神様はヒゼキヤの涙の祈りを聞かれたのでした。
「あなたの父ダビデの神は言われる。
あなたの命を15年延長しよう。
三日目には主の宮に上ることが出来、
アッスリヤの魔の手から、
私がこの町を守ろう」
ヒゼキヤ王は思いもかけないこの言葉に、なぜかもう、体の底から気力が湧き上がってきて、瞬きもせずにぐっと、イザヤを濡れた眼差しで捉えていました。
「私が癒され、
三日目に神殿に上ることが出来るとは、
素晴らしいことだ!
その確かな印がありますか?」
「もちろんです。
あなたはその一つを選ぶことが出来ます」
ええ!ぎょぎょ!ほんまでっか!!ひよこはつい叫んでしまった!!
だって、日時計を動かしてみせるって!!
日時計は今だって、静かにゆっくりと動いています。
よく見えるように、きゅ!きゅ!って影を動かすらしいのです。
ええ!ぎょぎょぎょ!ほんまでっか!!
また言ってしまった!!
でも王様は真剣そのもの。
「日影が十度進むことは自然の理。
それが十度、退くとしたら、
これはありえないことだ!
日影を退かせてください!」
王様はイザヤを、最新式日時計のそばに案内しました。
遠くで鳥が鳴いています。
柔らかな風がほってった王様の頬をなでてゆきます。
イザヤは日時計の上に左手を広げ、右手を太陽にむかって指し伸ばしました。
「ダビデの神、主よ! あなたが今、ヒゼキヤに約束なさったことを、この日時計の影で確かなものとしてください」
突然、ざわりっと風が吹いて、王の頬がひんやりとした。
ハッと目を開けて、日時計の影を見た。
「おぉ!なんと!」
王様の目は日時計に釘付け!
「お分かりですね。 さあ、その腫れ物の上に干しイチジクを貼りなさい」
イザヤは王様が引き止めるのも無視して、そのまま帰ってゆきました。
すぐさま王様の治療が始まりましたが、それはあっとゆうまに終わり、あとも残らず直ってしまいました。
それからは、何の迷いも無く精力的に仕事をこなし、宗教改革の他に、貯水池と533メートルの地下水道を作って、町に水を引きました。
それはアッスリヤの攻撃に備えて、篭城に耐えるためでした。
嬉しい事に、三年後には待望の跡継ぎも与えられました。
ある日、久しぶりに預言者イザヤが王の前に立ちました。
「久しぶりではないか。
どうだ、腫れ物は跡形も無く消えて、以前にもまして張りのある皮膚になったぞ」
王様はご機嫌だ。
「・・どうした?
なぜ黙っている。
おおそうだ、アッスリヤの隣国のバビロンから使節が来たぞ。
遠国からわざわざ、わしの病気見舞いに来てくれたのだが、
ほれ、このとおりぴんぴんしていたのでビックリしておった。
それで、両国で手を携えて強敵アッスリヤを倒そうと、
意見が一致し、意気投合したのだ。
気さくな、話の分かる使者だったので、
尋ねられるまま色々と案内して回ったが、
わが国の財宝に目を奪われていたぞ。
これでわが国も安泰だ。」
「王よ、主の言葉を聞きなさい。
あなたが見せて回った宝の総てが、
バビロンに運び去られる!」
「え!! なぜだ!!
わが国は、敵国から守られるのでは・・」
「あなたはアッスリヤから守られる。
しかし、あなたは神様に頼らずバビロンに色目を使った。
だから、あなたの子供たちもバビロンに連れてゆかれ、
その王宮で宦官となる。」
ヒゼキヤはぶるっと身震いした。
「とにかくわしの時代は平和と安全が保障されているのだな。」
王は大儀そうにイスの背に体を預けると、ふぅぅぅぅ。と息を吐き出して目を閉じた。
それから約100年後、小国バビロンが力をつけて、アッスリヤを倒し、ユダ王国も「バビロン捕囚」とゆう苦難の時代に突入するのですが、100年後のことなど、王様でなくても、わかりませんものねぇ。
それにしても、王様!!
あなたの最後のお言葉は悲しい!(´∩`。)
100年後の世界の有り様を鑑みて、今を見る。
お忙しくって、そんな心のゆとりさえ、
無くしてしまったのでしょうか???