私の名はナタン。この名前には賜物、与える者の意味があります。私はダビデ王様の友人として、また助言者、預言者として、右大臣、歴史家、宮廷教師として、様々な面で活躍し王様にお仕えしました。
その中で忘れられない出来事が三つありました。
1 王様の罪
まいりましたぁ!ダビデ王様が、とんでもないことをしてしまった事については、受け入れがたいものがありました。なんと、優秀な部下を、戦場の最前線に送り込んで謀殺してしまったのです。なぜ?その部下の妻と事を起こしてしまい、帳尻を合わせようと目論んで失敗したからでした。これはもう許されざる事柄です。
すぐに神様からお言葉が来ました。それで私は次の話を王様にしました。
「裕福な男が客を招待し、自分の所有する沢山の羊を惜しんで、貧しい男の、たった一匹しかいない羊を取り上げて、料理してしまったそうですが、どう思われますか?」
すると、義侠心の強いダビデ王様は
「その金持ちは死刑だ!」と断言しました。
私は王様の目をグッと見据えて言いました。
「それはあなただ!」
一瞬固まった王様の顔がゆがみ、唇がわなわなと震え出しました。その唇に指を添えた時、つかえていた檻が堰を切って流れだすのに、時間はかかりませんでした。
それは、一年半余りの苦しみと後悔の時を経て流れ出した涙で、滂沱と溢れて、その指先を伝って落ちました。
「私は神様に罪を犯しました。私の罪は死に値します」
「そうだ、お前の罪は死に値する。しかし、神様はそれを赦された。だが代価は大きいぞ。バテシェバが生んだ初子は死ぬ!」
悲しいことですが、それは本当でした。ダビデ王様とバテシェバ様の、悲嘆にくれる姿を見るのは辛かったです。しかしすぐに、次男を授けられました。それがソロモン様で、神さまの赦しの答えでもありました。そんなわけですから、ソロモン王子様にかける愛情たるや並大抵ではありませんでした。*1
わたしは、ダビデ王様がその時に作られた、すぐれた歌をすべて暗唱しています。そして、ますますダビデ王様が好きになりました。*2
2神殿建築について
「私は神殿を必要としない。イスラエル人をエジプトから導いた時から今まで、そのことで私が何か言っただろうか?ダビデに言え。羊飼いだったお前を、イスラエルの王にしたのは私だ。私はいつもお前と共いる。
約束の地にお前たちを導き、今や敵なしだ。お前の子孫は代々この地を治めるのだ。神殿建築は息子ソロモンに任せよ」*3
ある夜のことでした。神様からお言葉がありました。
昼間、夢見る青年のように、キラキラと瞳を輝かせながら、神殿建築について熱く語る王様に会っていました。そのまなざしに魅せられて、私も神殿建築計画に賛成し、王様を祝福してきたばかりでしたから、どっといやな汗が噴き出てきたのでした。そのまま目がさえて眠れなかったので、その夜は神様のお言葉を復唱し、祝福のひとつひとつを数えては、感謝し賛美して過ごしました。ダビデ王様が熱く神殿建築について語るのには訳がありました。罪を許され、ソロモン王子が与えられ、感謝の絶頂にいたからかもしれません。契約の箱を置く幕屋が、神様のお住まいとしてはあまりにも簡素過ぎると思われたのかもしれません。私も王様のお気持ちがよくわかりました。しかし、私も迂闊でした。新しく何かをする時には、いつも神様にお伺いを立てていました。平和になり緊張感が薄れたせいでしょうか。あの時、自分の思いのまま、王様のお考えに賛同してしまった事です。私自身も、神様の前に悔い改めての一夜が明けました。その日一番で、ダビデ王様のもとへ向かったのは言うまでもありません。
王様は、預言者として、神様のお言葉を取り次ぐ私の言葉に、神妙に耳を傾けうなずいておられました。
「神様は私に神殿建築をお許しにならなかったが、息子にそれを許してくださった。私の手は血で汚れているからなぁ‥」
それから自嘲するように唇の端をゆがめて、幕屋の中に入って行かれました。
私は王様のことが気になって、その次の日も,、朝一番に王様に会いに行きました。しかしそれは杞憂でした。
「ナタン、私は息子のために最高の建材を用意することにしたよ」
私は、すがすがしいダビデ王様の笑顔に迎えられたからです。そんな王様の清い決断とその信仰の深さに私は感激しました。
3 後継者問題
時は流れ、疲れ知らずで戦いに明け暮れた王様でしたが、その精悍だったお体も寄る年波にはかないませんでした。後年、冷え性に悩まされ、心配したご家来衆が美しい乙女を湯たんぽ代わりにと王様の寝所に侍らせました。
ある日、私は顔をしかめるような事を耳にしました。
ダビデ王様の四男アド二ヤ王子様がエン・ゲデで、アド二ヤ様を支持する人たちが招待されて、ご自分の即位式をしたというのです。ご自分を支持しない、私やベナヤ、それに王の勇士たちと、弟のソロモン王子様は呼ばれませんでした。*4
これは不味いことになる!と私は判断しました。そこで私はバテシェバ様の所に注進に走りました。
「よろしいかな。あなた様と王子様のお命にかかわることです。今すぐ王様の所に行ってこう言いなさい。『王様は息子ソロモンが王様の後を継いで王になるとお約束なさいました。でもアド二ヤ様がエン・ロゲルで即位を祝って祝会をしているそうです。私とソロモンは謀反人として殺されるのでしょうか?」
そこに私が、王様のもとに行って言いました。
「王様はアド二ヤ様を後継者と決められたのでしょうか?今日エン・ロゲルで『アド二ヤ王様、ばんざい!』と叫んでいたと聞きました。これは陛下がご存じのことでしょうか?」
ダビデ王様は、自分のあずかり知らぬことだと、首を振りました。王様の行動は早かった。その日のうちに、祭司ザドクと私と、侍衛長べナヤを呼び寄せて、ソロモン様を王とするための手続きをお示しになりました。私たちはソロモン様をダビデ王様のラバにお乗せし、たくさんの家来たちを引き連れて、ギボンへと急行しました。そして油注ぎの儀式が終わると、ラッパを吹きならしました。
「ソロモン王様万歳!」
\(^o^)/📯
これで町中がお祭り騒ぎになりました。この事はすぐアド二ヤ王子様の方に伝わりました。状況を知った招待客たちは吃驚して、蜘蛛の子を散らすように居なくなりました。問題のアド二ヤ様は、新王ソロモン様を恐れて命乞いをしたので、家に帰ることができました。
お家騒動も大ごとにならずに済んで、やれやれでした。
ダビデ王様も後継者問題が解決したので、ソロモン様に遺言を遺されると、気が緩まれたのか、そのまま崩御なさいました。
あ、そうでした、私も預言者ガドのように神殿礼拝の音楽にも関わったんですよ。