エレミヤの初仕事。それは「バビロンによる滅亡」について語ることだった。
そのためにグラグラと煮えたぎる熱湯の入った大釜を幻で見せられた。それは真に迫っていて、彼はおもわずのけ反ってしまった。
「災いは北から来る。ユダは制覇者バビロンに滅ぼされるぞ!」
エレミヤは声を張り上げた。
ダビデ王家の正統な血筋、その選民ユダに語られた神様からのお言葉は厳しかった。
ソロモン王の後継者問題でイスラエル(北王国)とユダ(南王国)とに分列してから約300年。それからつい100年ほど前に北王国はアッシリヤによって滅ぼされた。
滅亡の最大の原因は、北王国初代ヤラべアム王の偶像礼拝だった。*1
神様は、多くの預言者によって、その道を正そうと試みたが、民は拒絶し続けた。
それをユダ王国は見ていたはずだ。
それなのに南王国14代目のマナセ王の悪行は酷すぎた。悪王は色々いたけれど、彼は最悪だった。*2
神様はイスラエルを麗しい花嫁に例え、出エジプトから40年間の蜜月の日々を思い出させるようにとエレミヤに伝えた。
しかし今や、花嫁イスラエルは勝手に暴走し、夫である神様の手を振り切って別の男たち(アッシリヤやエジプトなど)のもとへ走って行った。
神様は言われます。
「あなたはなぜ軽々しくさまよって、その道を変えようとするのか。あなたはアッスリヤに、はずかしめを受けたように、エジプトにもまた、はずかしめを受ける」 (エレミヤ2:36)
それでも神様は言われる。
私のもとに帰れ!
出エジプト後に神様から渡された律法には、「離縁状を渡された者は、再び妻にはできない」とあるが、神様は自らそれを破るかのよう叫ばれる。
私のもとに帰れ!と。
花嫁ユダが、悪である偶像礼拝から離れるなら、神様は大釜バビロンから降り注ぐ熱湯のような災いから守ると言われた。
しかし、
神殿で奉仕する祭司は、主はどこにおられるのかと、うつろな目をし、
律法を教える教師たちは、教えるべき主を知らないと言う。
民を導く牧者である王や指導者は、誤った道へと民を導き、
偽預言者はバアルに膝をかがめる。
このような状態では正しい道に戻ることは難しい。
そこで神様はこのように言われた。
そのような時には、一時バビロンに捕囚の身となり、その傘の下で時を稼ぎ、世代交代をして、身も心も清められたわたしの花嫁として整えられる時を与えよう。
そればかりか、さらなるご計画はこうだ。
ああ、罪深い子らよ、帰って来い。
わたし(神)は異国に散らされて悔い改めた民を集めよう。
わたしは思っているのだ、わたしの心にかなった指導者を選び、おまえたちを正しく導くようにしようと。
エルサレム全市はわたしの御座となり、もはや旧い「契約の箱」はいらなくなる。
さあ、わたしと先祖アブラハムとが結んだ契約の通りに、乳と蜜の流れるこの地に戻ってくるのだ。
お前たちがわたしを「父」と呼ぶ日を待ちわび、二度とお前たちがわたしから離れないことを願っている。
皆の衆、神様のお言葉に耳を傾けよ。
そう言って、エレミヤは会衆をぐるりと見わたした。
エレミヤの言葉に人々は驚いた。
ああ、そうだった。私たちは罪を貸し続けていた。
人々はエレミヤから聞かされる神様の御思いに感動した。
見上げれば空は澄み渡って一点の曇りもなかった。頭上に降り注ぐ太陽の日差しは優しかった。
エレミヤは人々の素直な反応に目頭が熱くなった。