「あら!エレミヤさんの帯、新品!ちょっと着物と不釣り合いね!」
エレミヤにはパパラッチのような人たちがいて、その言動はチェックされ、噂話のネタにされ、逐一王様に報告されていたことでしょう。
彼は滅私の心でご奉仕をしていたので、服のことなどあまり気にしていませんでした。そんな彼が真新しい帯を締めていたら、誰の目にも奇異に映ったことでしょう。
エレミヤだってそんなことは承知の上。
『亜麻布の帯を買って
腰に結べ』
神様のお言葉に、ただ従っただけ。
神様はここで「上等な・・」とは言っていません。しかし上等な亜麻布は「聖なる者たちの義の行為」を表していましたから、奮発して上等な帯を買い求めた可能性が無きにしも非ず。
これは彼の行く先々で話題になり、彼の語る言葉と共に人々の嘲笑の的になったと思います。
エレミヤが一通り街々を回り終えると、神様は言いました。
『買って身に着けているその帯をユフラテ川の岸辺の岩の裂け目に隠せ』
🐤「ええ!
ユフラテ川!遠くないですか!多分、約600キロは離れていますよ。それになぜ川の岩の裂け目なのですか?」
ひよこだったら言っちゃうかも。🐤
でもエレミヤは神様のお言葉通り、ユフラテ川の岸辺の岩の裂け目を見つけて帯を隠しました。川のほとりなので湿気があって亜麻布の帯がどうなることやら・・
エレミヤはまた戻って来て、いつものように人々に「このままではこの町は滅びる、心の目を覚まして神に立ち返れ!」と説いて回りました。
当然、彼の腰に人々の目が注がれ、帯の行方に興味を持ったことでしょう。
それからどのくらい経ったのでしょうか。
今度は『その帯を回収せよ』とのお言葉がありました。
やっぱりね。
ひよこの推測通りでした。湿気にやられてボロボロ、使い物になりません。
エレミヤはその帯を持ち帰って町の人々に見せました。
「その帯はどうしたのさ、ボロボロじゃあないか」
「この前買ったばかりの帯だよね」
「ええ!ユフラテ川の岩の裂け目に隠しておいたって!
なんてことをしたんだ。上物の一生物だったんだろ」
「カビが生えてるよ!」
「どうかしている。毎日毎日くだらないことばかり言っているから、頭がおかしくなったのかい?」
やじ馬たちは色々な言葉を投げかけながら、彼の周りを取り囲みました。
その時、神様の霊がエレミヤに注がれました。
エレミヤの目が力を帯びてキラリと光り、取り囲む群衆を見渡しました。
「今、主の霊が私に臨んだ。神様のお言葉だ。
『ユダとエルサレムの民は、私の言葉を拒み、他の神々の後を追った。それ故、お前たちの誇りはこの帯のようにボロボロになり、何の役にも立たなくなる。
お前たちは私の腰の飾り帯、わたしの栄光を表すための選ばれた民だった。
しかしどうだ。背信に次ぐ背信。裏切りに次ぐ裏切り。私は徹底的にお前たちを苦しめ、ふるいにかける。お前たちの目を覚ますためだ』」
エレミヤは一気に語り伝えた。神様のお言葉を取次ぐ時のエレミヤの声は透き通って気品に満ち、落ち着きのある美しい声だった。語り終えると、どっと疲れが押し寄せた。いつものことだ。喉が渇いた。唇はカサカサだ。エレミヤがホット体の力を抜くと会衆のざわめきが耳に飛び込んできた。
神様のお言葉を伝えても、彼らには馬耳東風。敵意に満ちた目が彼を捉え、罵声が彼を攻め囲んだ。
エレミヤはひしめき合う群衆の中をそっとすり抜けた。
後を追うのは長く伸びた自身の影のみ。それも暮色騒然と迫りくる頃には儚くなって、祈りの場を求めてさまよう孤独な預言者の後ろ姿がぼんやりとあるのみでした。